トップページへimg

サムネイル100回

与那国島のカジキ

 

PEラインとスピニングリールで狙うカジキ

南海島小紀行も今回で100回を迎えた。94年1月号からの連載で、一度も休むこと無く続けられたのも、読者諸氏とAngling編集部と釣り仲間の応援があったらればこそ、と感謝している。

改めて100回記念で原稿を書くことになるけれど、この8年と5ヶ月は“あっ”という間であった。海のルアーフィッシングの世界を見るとPEラインの出現と、それに伴なう釣具の驚異的な進歩が大魚を身近にした。が、人間が釣り上げるといった、基本は変わらないにしても、ことさらに知力と体力を要求される。

これに釣り人の心というものが入れば、心・技・体となるわけで、立派なスポーツといってもいいのではないだろうか。

100回記念で何を書こうと考えたのだけれど、ルアーでなく、ライフベイトのフィッシングであることをお許し願いたい。

 

カジキを釣った時のタックル装備

 

 

 

 

季節のエクボ

12月に入ると、八重山は少し海が凪ることがある。これは新北風(ミーニシ)と呼ばれる秋から冬になるための季節風がひと通り吹き、本格的な1月からの冬季に向かって一休みといった、季節の“エクボ”みたいなものである。もっとも冬といっても、ここ、石垣島を含めた八重山諸島では、最低気温が10度を割ることはない。

「12月にチョウチョが飛んでいます!」と驚く観光客もいるぐらいで、気圧配置が崩れるとすぐに初夏のような気温になってしまう。

ぼくの生まれた北海道では、夏にストーブを焚くけれど、ここ石垣島では冬にクーラーをつけるのである。

12月中にそんな季節の“エクボ“が訪れて、急に与那国島に行くことを思い立った。普通は遠征の場合、計画を立てて、時間を取ってということになるが、石垣島から与那国島までは飛行機で、ほんの30分なのである。思い立ったら吉日とばかり、前日に与那国島久部良港 瑞漁丸金城勉船長の携帯に電話したところ、「明日は大丈夫じゃない・・・? 

今日はすでにカジキが5本上がっているよ。」それから、弟分の姫路のシーマン、山本カツオ君に電話を入れて誘うと、今日中になんとか那覇に入って、明日の朝一に石垣空港で待ち合わせようということになった。良く考えると、カツオ君が一番大変なわけで、ぼくの気まぐれと、天気の気まぐれから与那国島まで、突然行くことになるのだから、釣りの弟分とは時として、つらいのだろうと思う。

 

 

 

 

 

 

PEラインを巻いたスピニングリールでカジキを狙うこと

考えてみればスピニングリールでカジキを狙って3年になるのだけれど、なかなか船長によっては、理解してくれる人は少なかった。一度など、与那国島のカジキ釣り大会では、頭ごなしに怒られた。

「だからシロートは困る。カジキをなめているのか?」と怒鳴られた。でも言っていることはこの船長の方が一般的には正しいのだから、引き下がるしかない。スピニングリールでカジキを狙うには、船長との息が合わない限り、無理なのである。あたりまえのことだが、大魚はいつも、釣り人の影に船長のサポートがあるわけで、このことを釣り人が忘れてしまうと、驕り高ぶりにつながる。

「俺の前でその道具で釣ってみろ!船代は要らない・・・・」と続けられると、

「わかりました。港に帰ってください」と言うしかない。

PEラインを巻いたスピニングリールでカジキを狙うことはタックルやラインシステムをカジキの走りで起きる、ウォータープレッシャーからどう守るかに尽きる。ウォータープレッシャーに弱いPEラインはカジキの走りについていけず、直に切れてしまう。これは特に一度潜ってから、浮き上がり、横にジャンプしながら走られると、ひとたまりも無い。また、スピニングのラインキャパシティー300mの範囲で考えなければいけないから、ボートと魚との距離が問題になる。が、だからといってボートで追いかけまわして釣り上げても、面白くない。また、ドラッグにも限界があって、せいぜい10kgぐらいとなる。10kgを超えた場合における長時間のドラッグ使用は、熱対策との戦いで、良くメーカーが15kgだ、30kgだと言うけれど、カジキでは現実的ではない。

カツオ君がロングジグで釣ったカンパチ

 

カジキを狙うタックル

ぼくのタックルをざっと紹介しておこうと思う。ロッドはFISHERMAN,MONSTER CC61、ガイドはゴールドサーメット+スーパーオーシャン。これは富士工業にお願いして、ガイド40Φ〜16Φまでとトップガイド16Φを作ってもらった。ゴールドサーメットは一般的にはSiCより硬度が劣るとされているけれど、ぼくはこの摩擦抵抗の少ないリングを気に入っている。ちょっと高いけれど、衝撃に強く、絶対的にリング表面温度が上がらないのだから、SiCより実践的なのである。

リールはダイワEXi6000(FISHERMAN社チューニング)、PEラインはMAX POWER6号250m(モーリス社)+SABリーダー100lb30m(FISHERMAN社試作品)+バリバス200号3m(モーリス社)に、フックはサイクルフック12/0(マスタッド社)にライフベイト。

SABとはショックアブソーバーの略で、大物を狙う時のPEラインとショックリーダーの間に入れる、新しい考え方のショックアブソーバーナイロンラインである。この特殊ラインは本来クロマグロ用に開発したもので、魚の走りで起きるウォータープレッシャーによるPEラインの切断を、限界点付近で少し伸びてくれることで回避するように設計した。サイクルフック12/0は、あわせが要らないので、ボートで無駄なライン出を防げるし、一度かかるとはずれない。

ラインシステムについては、PEラインとSABリーダーとのジョイントをPEラインにビミニツイストで15cmぐらいダブルラインを作り、フィッシャーマンノットでSABリーダー

100lb単糸30mを結ぶ。ショックリーダー200号3mとSABリーダーのジョイントはFISHERMAN200lbスプリットリングスイベルを使いウォータープレッシャーを最小限に留めた。

 

カジキとのファイト ラインがもの凄いスピードで出ていく。

 

クロカワカジキとの遭遇

翌朝6時、与那国島の沖に向かうと、昨日までの凪はうそのように、波がたち始めていた。餌のキハダやカツオ、カンパチをジギングでカツオ君と釣り上げ始めると、みな大きくて、ライフベイトには向かない。

その内、2kgぐらいの手頃なキハダが釣れたので、フックセットして根の上を流し始める。

一時間ぐらい経った時、50m後方を流しているライフベイトの直近くにカジキのビル(角)が見えた。ロッドの穂先が、ばたつきだし餌のキハダが怯えているのがわかった。ロッドを手に持ってゆっくりとリールを巻いた。カジキはつられてボートに近づいてきた。20mまで引き寄せてリールを巻かずにロッドアクションでカジキを誘うとカジキはビルでベイトを跳ねつけた。水面に頭を出して首を左右に振り、キハダを呑み込もうとしている。ぼくはベールを返して、ラインをフリーにする。船長はニュートラルにしたが、ボートは惰性でゆっくりとカジキから離れていった。カジキはベイトを咥えたまま潜って行った。

2秒、3秒、5秒と自分の心臓の音が、時を刻む。カジキが呑み込むのを待っている時間は、長く感じているけれどせいぜい10秒だろう。金城船長が指で丸を作った。ぼくはドラッグを8kgに上げてからベールを返して、ロッドを脇に挟み両手でしっかり持って衝撃に備えた。

船長はゆっくりとギヤを前進に入れる。2秒後、完全に魚とラインが一直線になった時、ぼくは綱を引くように強くあわせた。瞬間PEラインは針金のように更に直線となって、海面を切り裂いていく。ラインの後には、海水のヒレが出来て走り出し、リールは金属音に近い悲鳴をあげ、スプールが高速で廻りだす。今度はドラッグを直に緩めながら、ロッドをスピニングハーネスとドッグハーネスにセットした。

後は魚の動きに合わせてハンドドラッグでプレッシャーを掛け止めるだけなのだが、そう簡単に事が運ぶ訳が無い。ラインが100mまで引き出された時に、魚がジャンプして空中に舞い、2度3度と繰り返した。 PEラインは相当なウォータープレッシャーを受けているのに違いないわけで、ここで更にドラッグを少し緩めた。

しかし、カジキは飛ぶことでかなり疲労したに違いない。ジャンプが治まったところで、

ラインは150m引き出されていた。再びドラッグを上げて、魚を止めた。そこから魚の頭をこちらに向けて泳がせながら、ラインを巻き取っていく。ここでプレッシャーを掛けすぎると、魚は深海に潜ってしまい長時間のファイトにつながる。微妙な駆け引きであるけれど、ぼくはボートを動かさないで、魚の動きに合わせて、ラインを巻き取った。運が良いのだろう。魚がすんなりと50mまで近づいてくれたところで、金城さんのアドバイスが聞こえた。

「まだ、元気過ぎるから、もう一度走らせて!」

ぼくはポンピングで魚を刺激すると、また、ラインが引き出されていく。

ジャンプ!ジャンプ!ジャンプ!・・・・・

カジキとのファイト 魚の動きに合わせてラインを巻く

 

切れないラインシステムと外れないフック

「あのハリは外れないよ。」と金城さんは笑って続けた。PEラインは180m出され残りが70mとなったところで、魚が止まった。ゆっくりと引き寄せてから、ボートの前方斜めに近づくように誘導する。ラインキャパシティーの安全のために、ボートを最小限に動かし、魚との距離100mのところで止めてもらった。

ここからが勝負である。

ゆっくりとしたポンピングと魚の泳ぎをシンクロさせると50mの所まで、近づいてきた。ぼくは再び船長を見ると、ランディングの用意に入っていてこちらを見てくれない。引き寄せても良いと判断して、更にポンピングを続けるとSABリーダーが見え始めた。小さいノットが近づき、リールに巻き込まれシステムが正常に機能している事が解った。魚は海面下、10mの所を、疲れきって、ボートに向かっているはずであるから、ここから浮かせにかかる。波の間にスプリットリングスイベルが見えた時、尾びれと背びれが海面に現れて、水を切った。

「もっと巻いて!」と船長の指示が飛ぶ。

ぼくはゆっくりとラインを巻くと、ショックリーダーは呆気なく船長の手の中に入って、釣りは終わった。

約9分のファイトである。

死んでゆくクロカワカジキはブルーに染まっていった。

「この色がブルーマーリンの由来だよ・・・。」と船長が言う。

「ビデオとカメラに、バッチリ撮りましたよ!」とカツオ君も嬉しそうだ。

クロカワカジキ90kgであった。

今回はルアーでもIGFAルールでもない釣りの世界であったが、こんな世界もあって良いとぼくは思っている

 

 

 

 

 

 

使用タックル

ロッド・・モンスター CC61 

スピノザ vertical48

PEライン・・モーリス MAXPOWER6号

SABリーダー・・“FISHERMAN社SAB100lb(試作品)