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サムネイル106回 最終回

松山のブリゲーム

 

  

南海道の道後

松山市は、夏目漱石の“坊ちゃん”を引き合いに出すまでもなく、道後温泉のあるところとして有名である。道後の道は南海道の道と同じで地域を表しており、愛媛県つまり伊予の国は古来、道前と道後に分けていた。

たぶん、都から見て、国府のあった今治付近までが道前、その奥が道後と言った。

道前は名前が残る要因が少なく、道前平野に面影を残すのみで、結果として道後が有名になってしまったのである。

ちなみに今は東予、中予、南予(宇和)と言っている。

南海道はクダコ釣行でも触れたけれど、7世紀、文武天皇の時代に全国を東海、北陸、東北、山陰、山陽、南海、西海と7道に分けた。南海道は紀伊半島の南側と四国全土を指す。

つまり道後温泉は南海道道後温泉である。この温泉は聖徳太子も訪れたほど古く、日本書紀にも登場する日本最古の温泉である。温泉好きのぼくとしては、見逃す手は無い。

100年以上前に建てられた道後温泉本館の前に立つと、夏目漱石や正岡子規といった明治の文豪が片手手ぬぐいで現れるような気がした。

大浴場の神の湯に、庵治石(あじいし)で作られている湯釜があって、万葉歌人山部赤人の長歌が刻まれている。

優しい湯ざわりは、アルカリ単純泉の透明で何ともいえない。

道後温泉本館前で

 

ブリは出世魚

6時に松山を出船した。8月に入ったばかりの瀬戸内海にしては少し風があるらしい。

「昨日より今日は少し風がありますね。」

「波もイイ感じだけれど、今日は潮が悪い・・・1月のうち、4番目に悪い潮だから、動かないぞ・・・朝一に釣れてからは夕方まではいけないかもしれない。」と、船長は言う。

うかつにもぼくは、浜名湖であるクラブ主宰のシイラ大会に日程を合わせて、松山に来たことを後悔した。

釣りをするには、やはり大潮が良いことは一般的であるけれど、ここ瀬戸内海では顕著に釣果にでるらしい。

「速い船のわりには静かですね。」

「大きな消音機を付けてね、エンジンはコマツ、40ノットはでるよ・・。」

GPSを見ると、既に速度は36ノットを超えている。1時間近く走って、小島の近くにやって来た。

「イイ感じで、潮が動いている。」魚群探知機を見る船長の目は真剣だ。

ぼくは、海底地形を知りたくて、まだキャビンにいた。

「この盛り上がりはイワシだね。そして、これがブリ・・・」と、説明してくれた。

一通り地形がわかったところで、デッキに出てロッドにジグをセットする。

「穂先は柔らかい方がええね。長さは6フィート〜7フィートというところだ。ショックリーダーは10ヒロ取ると魚にもPEラインが見えない。」と、と続けた。

ぼくは、50lbのショックリーダーを12ヒロ取り、ジグを付けた。

直ぐに、横にいた中元くんにヒット!ラインが出されている。ロッドは強いベントを見せてリールが鳴った。ラインは少し出されたが、中元くんがスプールを抑えると魚は止まった。5分程のやりとりの後、魚は浮いた。

「かなりありますね。ブリ?!6kgはあるね!?」

「メジロですよ、このサイズは・・!」

「じゃ、ブリは・・・・・・・・・・?」

「この船では、8kgを超えてブリ、それ以下はメジロかな!?」と船長は笑いながら言う。中元さんの体格が大きいから、大したサイズに見えないけれど、良いサイズであることは間違いない。

ブリは出世魚で大きさに決まって呼名が違う。

関東では、ワカシ・イナダ・ワラサ・ブリ

関西や松山のある瀬戸内海では、ツバス・ハマチ・メジロ・ブリ

ちなみに、青森ではツバエリ・コズクラ・フクラギ・アオブリ・ハナジロ・ブリ

ブリは出世魚の代名詞みたいなもので、沖縄を除く日本各地に生息し、多くの釣り人に愛されている。また同属のカンパチやヒラマサほど大きくならないが、15kg前後まで成長するらしい。実際、瀬戸内海クダコの瀬で18kgの大ブリが竿とリールで上がっている。

 

6kgのメジロと中元さん文中参照  ジグ・・・ビグアイ130g

 

今度は、後ろで黙々とジギングをしていた植村くんのロッドが大きく曲がっている。

「なんか変なひきです・・・急に強くなったり、あっさり上がったり、重くなったりで色々混じっているみたいで・・。」と、植村君。

「アシストフックも付けているの・・?」

「えっ、まあ・・トリプルとアシストの両方付けてます。」

45分が経つと魚がキラキラ光って見えた。

2匹付いている!!トナカイみたいだよ・・!!!」

2匹の魚は並んで泳いだり、バラバラに絡み合ったりしながら上がって来た。

2匹同時は、ぼく初めてです!」と植村くんは喜んだ。

さらに、当たりは続いたけれど、昼近くになって、船長の予告通り、潮がピタリと止まると魚信は遠のいてしまった。

 

植村くんのダブル ジグ:サマンサ115g 

 

ブリのナブラ

夕方近くに、バーチカルジギングも一段落していた時、ブリがボイル!!

船長は、もう予測していたようで、

「トップやミノー、ジグキャストで狙うと良い。」と言う。

ぼくは、ジグトップを取り出してキャスト!

バイトがあったけれども、ファール。ナブラは遠ざかり、しばらく浮く気配は無い。

船長は的確に潮と風を読み、ボートを回して、エンジンを切った。

「この辺で、ボイルするよ。」と一言

「ヒットしたら竿をあまり立てないほうが良いね。」と、ファイトのアドバイスもしてくれた。

3分後、ブリのボイルが始まる。

「小さいね・・・・!?・・だんだん大きいやつもボイルしそうだから・・」と続けた。

少しのあいだ、間を置いたところで、ボート脇50mのところで、大きいやつが4〜5匹ボイルした。

「あれはメジロくらいだよ・・良いサイズだ!」と船長は指をさす。

運良く、ほくはキャスティングフォームに入っていたので魚の動いた方向にデルタブレード付きのジグをキャストした。

ちょっと沈めてから、水中でデルタブレードを回して誘うと、ジグが水面に出て水しぶきを上げた直後に、ブリがバイトした。

5.4フィートのショートロッドは綺麗に満月を描いて曲がった。

ぼくは船長のアドバイス通り、ロッドをあまり立てることなく、ファイトを続け、5分後に6kgのメジロをランディングできた。船長の腕に舌を巻きながら、その後3匹を連続で釣ることができた。

「ありがとう!船長。」と言うとあまり笑わない船長が、ニッコリとした。

 

写真左:アタリジグのスイッシャージグ50       写真右:ベイトフィッシュとジグの長さを合わせるとヒット率が高くなる。

 

最終回の南海島小紀行

長く続けてきた南海島小紀行も、いよいよ最終回を迎えた。

9年近くのライフワークのような釣行と原稿の日々から、開放されると思うと妙な虚脱感がある。

連載当初、釣り以外の小さな出来事を書こうと思い“南海島小紀行”と表題を付けたのだが、読者諸氏より、“釣り雑誌には釣りの文章を”という声もあったりして、やっぱり釣り師は、釣りの事を書こうと思った。

また、釣具と釣法の進歩が目覚しく、一般のアングラーが大物と遭遇することが珍しくない時代になった。

自分では“釣りを文化へ”と、思い、夢とロマンと冒険を書いたつもりであったが、さてさていかがだっただろうか。

少しの反省と100回以上続けた継続に満足しつつペンを置きたい。

8年と11ヶ月(106回)、1度も休むことなく、書き続けてこられたのも、アングリング読者諸氏とアングリング編集部のみなさんの、応援と支援があったればこそと、深く感謝している。ありがとうございました。

写真中央:お世話になった豊漁丸小池船長

 

活躍したタックル

ロッド・・FISHERMAN BG・OCEAN L  YELLOWTail Rエボ

ルアー・・スイッシャージグ50  ビグアイジグ  SAMANSA85

ライン・・MAXPower3号