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サムネイル11回

釣りフリークの新婚旅行

 

愛媛の清水正道君が新婚旅行で、かわいい新妻を連れて石垣島にやって来たのは、何年か前の9月だった。

新婚カップルがボートをチャーターすることはよくあるのだが、「船泊で」というのは始めてのことである。

「鈴木さん、20kgオーバーは釣れますか?」

「釣れないでしょう。多分。」などという、会話をしたかどうかは覚えていないが、とりあえず、ジャイアント用のレンタルタックルを何本か載せて、夜には僕のデッキで寝ることを覚悟しての出航であった。

彼はとにかくルアーを投げまくり、ボートは夕方に西表島の南西にある入江にイカリを降ろした。

夜釣りでカマスを狙うためである。

 

午後11時頃、付き合いきれずぼくは2段ベッドの上段に横になってしまった。

結局、朝起きると、下のベッドには奥さんが寝ていて、本人はなんとデッキでロッドを持っているではないか。大体、新婚旅行で釣りをすること自体、不届き千万であって奥さんの忍耐を寛容さに甘えた、釣りフリーカーのなせる業である。

その日も、彼はルアーを投げまくり、予想通りといおうか、残念といおうか、何回かのバイトはあったものの、ジャイアントにはかすりもしなかった。

「夜のカマス釣り、面白かったです。鈴木さんが、そのカマスを1尾エサで泳がせ釣り。とんでもないのがヒットして、ジーッ、プツリ、ムムム!!ときました。」と、港に帰って妙にはしゃいでいる。

その上、「俺、お金貯めて、顔洗って、また来ます。」ときた。

 

年賀状が来て、春になって便りが来て、更に1年経って、かわいい女の子が生まれたという手紙が来た。

そして、何カ月か経って久しぶりに電話が来た。

「鈴木さん、金貯まったから行きます。チャーター出来ますか?」

「いいよ。何を釣りたいの?」

「ジャイアントです。1尾でいいです。船泊で2日チャーターします。日は、まかせますので宜しく。」

10月の大潮と決まり、波はやって来た。ロッドもリールも、もちろん自前で細かい所に工夫が見られた。

特に、リールのドラッグの工夫には舌を巻いた。ラインシステムも十分に勉強している。

ぼくは、波照間島に船を向けた。

昼近くに着き。南側の断崖の高那という所で、トレバリーを何尾か釣った。潮の流れと風とを計算すると、明朝の7時前後が良さそうなので、早目に波照間港に入って寝てしまうことにした。

5時半に起き、朝食をそそくさと取り、島の東のポイントに入った。

「リーフが切れて、崖になっている所がある。そこがポイントだ。1投目から気合を入れて投げてくれ。着いたら直ぐにキャストするから、そのつもりで。」

 

なんとなく、ヒットする予感があった。ポイントに着いて、すぐに彼は投げ始める。1投、2投、何も起こらない。勘が外れたかなと思った瞬間、ルアーにジャイアントが飛びついた。

10ftのロッドから一気にラインが100mぐらい引きずり出されている。

彼は、ポンピングを試みるが、一向に魚は寄って来ない。船を魚に近づけてゆくと、魚はラインをまた引きずり出して、満潮のリーフ内の浅瀬に逃げ込んで背鰭を見せながら、横にゆっくり移動しだした。

砕ける波の向こうで魚はびくともしない。さらに、リーフの奥に入られたら、万事休すということになる。

「ドラッグを上げて、引きずり出せ。」と、ぼくは叫ぶ。

清水君はドラッグを締め込み、押さえ込むと魚の動きが止まり、大きくエラを広げて首を振るのが見えた。魚はゆっくりと深みに逃げ込み始めた。

刺激しないように、ボートを魚の真上に移動し、彼は思い切りポンピングを繰り返す。

10分後、ボートの近くにジャイアントが浮いた。

20kgのジャイアントは、清水君の胸で記念撮影を終えた痕、迷惑そうに海に帰って行った。

しばらく休んでいると、

「鈴木さん、今日は僕もう投げません。適当にお茶を濁して帰りましょう。」

「いいけど、まだ朝の8時だよ。」

「ぼく、当分来れないし、若いし、釣り好きだし、だから2尾釣るともったいないから、後にとっておきます。」

「それじゃ、シロダイ釣りでもやるか、のんびりと流して。」

セグロアジサシが船をかすめて、真直ぐ南に飛んで行った。

それからまた、1年経った。女の子は大きくなったことだろう。