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サムネイル17回

ファニング釣紀

 

午後5:30、小さな飛行場に向かうトラックの中で、友人の川口康君がポツリと呟いた。「ラストフロンティアかもしれない。」

ガイドのMr. EDDIE E CORRIEに言わせれば、やはり、G.T.とビッグボーンの楽園だという。ファニング島は、クリスマス島から北西に350kmに浮かぶ小さな珊瑚礁の島らしい。

イギリス人の若いパイロットは、しきりに小さな飛行機のタイヤの空気圧を気にしている。コンプレッサーがないので。ダイビング用のボンベで補充し、とりあえず、クリスマス島を後にした。上空には所々に発達した積乱雲があり、小さな8人乗りの双発機は、上下に大きく揺れた。2時間後、洋上の遥か彼方に灰色っぽく見えた幽かな島影は見る見るうちに近づき、濃紺のじゅうたんの上に緑色のおおきなドーナッツをポンと投げたような、ファニング島が迫ってきた。

ぐるりとヤシの林を眼下に見ても、いっこうに飛行機場など現れてこない。それでも、パイロットは、一度洋上に機首を向け、思い切り良く、真直ぐに高度を下げながら突っ込んでいった。微かにヤシ林の間に広がる草むらに、絶妙と無理矢理の間ぐらいの着陸を試みた。その後、そのドーナッツ島の内海に20mの地点で飛行機は、ようやく止まった。

ぼくは、前方に広がる柔らかい乳白色のボーンフィッシュフラットの海を見て、息を呑んだ。

「ビッグボーンパラダイス!フミオ、ヘイ!!」とエディが叫んだ。

どこから現れたのだろう。子供達が数人、人懐っこそうに近づいてきた。やがて、ボートがやって来て、みるみるうちに人が増えた。

 

 

村は、飛行場(草むら)の対岸にあるらしく、我々を乗せたボートは、のたのたと無数にある浅瀬を避けて進む。ようやく、辿り着いた村に、もう一艇の日本製のボートが待っていた。

川口卓・康兄弟と山田隆君、朝野聡一郎君は、G.T.を午前中で切り上げて、例のビッグボーンをやるということで、G.T.狙いだけの我々と別れて別の船に乗った。150kgはあるガイドのビッグ・エディの案内で、斎藤慶次君とぼくは、早速G.T.狙いで出港した。2分でポイントに着いたらしい。ポイントといってもただ海に出たに過ぎないのだから。

2投目、ポッパーの後ろにかすかな波紋が現れたと思った瞬間、ドカンというG.T.び炸裂音と、強烈な衝撃波がぼくを襲った。ためらいも無く、ポッパーに噛み付いたG.T.は、一気に海底へと走る。リールは、心地よいキリキリ音を発して止まった。風にうなるラインは、ぼくの体を刺激して6kgのドラッグのポンピングもまるでボートを漕いでいくように、リズミカルにラインを巻き取っていく。

カナダのタンカーの残骸が見えるポイントはすごかった。45kgテストのハワイアンフックは、3分のファイトの後、完全に開いてしまった。

「何だ、今のは?」

引きつったぼくの顔を見て、エディは大きく手を広げ首を傾げる。

今度は、斎藤君のポッパーに横からG.T.が襲い掛かり、10ftのロッドを大きく曲げた。時間をかけてゆっくりとファイトし、エディがハンドランディングし、斎藤君共々にっこり笑った。

  

 

出港当時、高かった波は午後になりさらに高まってきたので、すぐに村に帰ることになった。ボートは波間を本当にゆっくりと進んでいく。フラットの海面であれば、30分位で着く所を、2時間かかって、やっとの思いで村近来ると、大きな波間に小さな黒点がさ迷っている。その点は1つ2つではなく、20以上あるのである。

さらに近づくと、点は大きくなり、男達の乗った4mに満たない小さなて手漕ぎカヌーが強風と大波の中をホールディングしているのではないか。

「ツナフィッシャーマンだよ。」と、エディが教えてくれたので、カツオのことをよく南の海でツナということを思い出して、「ボニート?」と、尋ねてみると、「ノー、イエローフィシュツナ、100〜200Lb。」

内海に入る水道近くに来ると、子供達が手を振って駈けて来た。手に長い竹竿を持った子供が、しきりに海を叩き始めると、すぐに大きく竿は曲がり、銀色の40cmくらいの魚を抜き取ってしまう。その横で、まるで同化したように、川口兄弟と浅野君、山田君の竿を振る姿が見えた。

雲は低く垂れ込め始めて、スコールカーテンが遠くに見え始めた頃、風はさらに強まってきた。