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サムネイル2回

本物のフルーツ

12月になると、どうもソワソワしてくる。口の中が甘酸っぱくなってくる。

仕事もそっちのけになってくる。実は、毎年恒例のパッションフルーツ狩りへ隣の西表島まで行くのである。

季節風の北西が強く、海も時化てお休みの日、安栄丸という高速船で西表島に渡った。この不思議な島は、亜熱帯の森が90%をすっぽり覆っていて、いつ来てもワクワクする。

さらに今日は、この森に入っていけるのである。

ゴム長にGパン、ベストに軍手、PENNのキャップをかぶり、カッパとズタ袋を持てば、出来上がり。特にゴム長靴がよく、下手にジョギングシューズなんか履こうものなら、例の恐ろしいハブにガブリとやられる。

 

港には、弟分の中神明君が迎えに来てくれた。

彼は、自然に対してはぼく以上にガンコ者で、森のガイドを本職としている。愛犬のバルも一緒だ。

野生のパッションフルーツの秘密のポイントは、パイナップル畑から山に入り、谷を渡り、崖を登った所にある。途中、嶺井のオバン(八重山では、おばさんのことを敬愛をこめてオバンという)の畑に寄って、パインをもらった。

このパインは、冬実(夏にとれるパインは夏見)と言って、肥料もやらず農薬も使わず、もちろん今流行のホルモン剤も使っていない。要するに、何もしていないアダ咲きパイン、クズパイン、粒も小さく、不揃いなハンパパインである。

黄色くなったまま、完熟しているのを選び、頭の葉の部分をわしづかみにして、元をナイフでズバリ。

皮もスパスパむいて、大口を開けて無造作にカブガブと食う。野趣溢れる強烈な甘酸っぱさが口の中に染み渡り、舌がヒリヒリとしびれるようだ。

 

 

一通り、パインで腹ごしらえをしたぼく達は、森に分け入った。しばらくすると、パッションの蔓が見えてくる。下を見ると落ちている落ちている。前日の雨、風が良かったのだろう。あたり一面、黄色い実でいっぱいである。

持ってきたズタ袋に必要な分だけ入れ、あとは手で擦ってカブリ。カラを歯で割ると、中からオレンジ色の果肉が出てくる。それを、人差し指でほじくり出して種ごと飲み込む。

「あースッパイ!」

ちょっと土も一緒に食べたみたいで、苦さもある。

中神君はバルと一緒にイノシシを見つけたらしい。しばらく帰っていないことをいいことに、のんびりと風倒木の上に横になって、昼寝をすることにした。