トップページへimg

サムネイル20回

仲ノ神島釣紀

神々の降り立つ島から

 

風が少しやんできた。

日本列島にそって梅雨前線が形成されると、暖かい南洋の海からせっせと湿った、雨の素が供給される。

この強い南風は、琉球列島の上を通過する。沖縄では、カーチバイといって、漢字で「夏至南風」と書く。日の出とともに吹きはじめて、日中はかなり激しくなり夕方になるとピタリと止まる。

島影にかくれて既に2時間がたっている。早朝の出発と、途中のシケで全員がかなり疲れていて、汗ばんだ寝息をたてている。

午後5時30分、風が弱まってくると、大盛船長も気付いたらしく、ゴソゴソと起きだした。

「どうかね、風は?」と尋ねながら、僕の返事も聞かずアップデッキのコントロールルームに消えた。

直ぐにけたたましいエンジン音がたち、若いクルーも起きだした。  

 

仲ノ神島は、西表島と与那国島の間にある無人島で、海鳥の島としても知られている。

当然、鳥類保護区に指定されて、上陸は禁止である。

島は、ゴツゴツとした砂岩が斜めに突き出して、この島が大きな地殻変動で出来たことを物語っている。

珊瑚礁はほとんど発達してなく、島に直接当たる海流や潮流が、激しいことを物語っている。

新生代第3紀において大陸の大きな川の河口部にあたり、土砂の堆積が数百万年にわたって蓄積されたらしい。それが石垣島や西表島、与那国島そしてこの島等を形成している。

砂岩石層でできているこれらの島々と同様な地形が海底にあり、大きなビルを沈めたようなブロック状の根があちらこちらに存在し、さらに黒潮の分流がまともにぶつかって豊かな漁場を形成していると思われる。また、伝説によると、神々が天空と地上をいったりきたりする入口の島としても、言い伝えられている。

十数年来、毎年のように訪れているがいつ来ても素晴らしい感動を与えてくれる島である。

 

 

6時頃に島から6マイルくらい離れた、3km四方くらいの大きな根の近くまでくると、思った通り風がやみ、穏やかな波になっていた。魚探とGPSで丹念に根の頂上を探し潮の流れ、風、船の流される方向を割り出して、キャストを開始する。

水深は優に40m近くあるらしく、黒々とした海に斜陽のオレンジの光が、奇妙なコントラストを描いていた。このポイントは、5〜6月にかけてGTの産卵場所となっているらしく、15から50kgのGTが2〜3百匹という大群でスクーリングする場所である。

僕はかつてこのポイントで、30kg〜40kgのGTを何匹か釣り上げたことがあり、また何度か悔しい思いもしている。 

全員が同じクレイジースイマーを投げはじめると、何匹かのカツオドリがやってきた。この、大きくスライドしながら海中を泳ぎ、水面に飛び出してエアーをたくわえ、また、

泡を曳きながら海中をクネクネと泳ぐ、自動アクションのルアーは、GTの群れに対して、カツオやツムブリの大型のベイトフィッシュの群れが近づいてくると錯覚をもたらすらしい。

大型魚は、細かいバイブレーションよりも、大きくスライドするルアーを好むことは、すでに知られていることである。大型のGTにアピールするルアーの質感は単に大きいことや、バシャバシャといった派手な、水面上の動きでは無く、もっと低い音の、大きな泡の破裂音であり、水中に入っている体積と、そのスライド軌道の幅によると考えられる。それはこのルアーの今までに培われた実績に裏付けられる。

単なるパンピングは、大型魚に警戒心をあおり小型魚に好奇心を抱かせる。

この種のルアーは、カスミアジやバラフエダイのような根魚に有効であり、プレッシャーのゆるい国外のバージンフィールドで、威力を発揮することがある。

漁師のプレッシャーのきついポイントにおいては、GTが大型化する過程において、かなりの経験をつみ、常に警戒心をおこたらないはずである。アングラーの目にあまり派手に映らない動きのルアーは、巨大なGTには、かえってその警戒心を、薄れさせ、闘争本能を刺激するに違いない。

 

 

ただただ広い根のどこに、その群れがいるかを探し出すために、深い水深から浅い水深へと船が流れるように、位置を決めた。

キャストしはじめて15分もして船長が水深25mを告げた時、突然「カーニバル」が始まった。まず石垣さんのクレイジースイマーが海の中に消し飛んで、直ぐにはずれた。

次に船首の方で投げていた橘文也君にバイト「でた!アーッはずれた!!」と叫び声が聞こえて、顔を向けようとした瞬間、僕のルアーに衝撃が走ったが、のらない。

「ヒット!!!」と誰かが叫んだような気がして横を向くと、石垣さんのロッドが曲がっている。

4分程でランディングして、記念撮影をして、すぐにリリースした。 

「本当にルアーでGTが釣れるんだなア」とスキッパーの前田君が、石垣さんにポカリスエットを渡しながら言う。

「すごい魚ですね、飛び出して、潜って、ぐいぐいとラインをひきずって、いやア・・参りました。」とクルーの山下君も喜んでくれた。

「ちゃんと逃がしてやるんだね」と船長は少し残念そうな顔をしながら、納得したように言った。

「アー、すっきりした。一匹でいいや。」と石垣さんは大いに満足。

すでに太陽は水平線の近くまで落ちている。風は更に弱まり、ウネウネとした大きなウネリだけが船を取り囲み始めた。僕はキャスティングをやめて、一時そのスローな瞬間に身を委ねた。

かすかに遠くに船影が日没の光の渦の中に見えた。

船尾が大きくはねあがったその船は、台湾の漁船であろう。ゆっくりゆっくりと 南方に進んでいく。

船長が水深50mを告げた時、「カーニバル」は終わった。

 

 

使用タックル

ロッド:GIANT86  OCEAN68

リール:PENN 750SS  EX 5000i

ライン:バリバススーパーソフト PEキャスティングジャイアント

ルアー:クレイジースイマー100、90

    クレイジーポッパーペンシル80