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サムネイル26回

クリスマス島のGTとイエローフィン

 

グリーンランド南のイルミンガー海で冷やされ、重くなった海水は、深海流となって、大西洋を南下する。南極のウェーデル海から北上する同じ流れと合流し、アフリカ南端を通り、ニュージーランド沖から北上するが、一部は、分流となって、クリスマス島近くで湧き上がる。

深層大循環と呼ばれるこの流れは、グリーンランド沖を出発して既に1500年以上の時が経っているのである。浮上する栄養たっぷりの冷たい海水は、プランクトンを増殖させ、小魚が集まり、それを狙って大魚やイルカやクジラがやって来る。

あえていえば、北上する本流は、北海道沖から千島列島、オホーツク海に入り、カムチャッカ半島沖で消滅するまで2000年かかる。

 

パントボートで

カットクリスタルのように、海面は光りだした。

太陽はやや傾斜し始めたものの、その白光色を変えようとしない。既に、パントボートは浅瀬を過ぎ、濃青色のディープサイドに流され始めている。

高く上空を舞っていたグンカンドリの群れのうち数羽が、海面にスプラッシュするルアーをみつけたらしく、ギャーギャーという雑音にも似た声を上げながら、鋭い嘴でルアーに襲い掛かったりもするが、大体はボートの回りに群れて様子をうかがっている。

「昨日は、ここで2発大きいのが出た所です。」と、同行の斎藤慶次君がおぼろげな山立てをしながら言った。我々は、7名のメンバーで来ているので、毎日2艇のパントボートでメンバーを変えながら、5時に起きて出港した。だから、昨日は彼とは同じパントボートには乗っていない。

「キハダの大群が通って、ドボンドボンと目の前でジャンプするんです。だから、昼そっちのけで、ポッパーを投げたらァー、スゲェーのが出てェー。」と、ちょっと横須賀生まれらしい浜言葉で話を続けた。

 

 

かすかに日が陰りだしたので、オレンジ色のペンシルに切り換えて、キャスティングを繰り返していると、沸き立つ泡の中に、ルアーは消し飛んでしまった。

ぼくは、目いっぱいの横アワセを5〜6回繰り返すと、ラインは加速度的に飛び出してゆくが、20〜30mで止まった。

「ビッグトレバリー!」と、ガイドはニコニコとしながら叫んだが、一向にエンジンをスタートする気配がない。再び、縦のアワセを鋭く2回ほどして、ドラッグをロッドベントを見ながら強めると、ようやく魚は動きを止めた。

ぼくのタックルは、GIANT86、ルアーはCZPP80、システムはメインラインにフィッシャーマンタイプ・キャスティングPE6号、ビミニツイストでダブルラインを1mとり、PE20号を特殊ノット(FISHERMANノットU)で結び、3.5m200Lbテストのショックリーダーをとる。ロングリーダーシステムを使っている。これは、リーフエッジでのヒット処理や、自分でランディングする時に、非常に有利である。

さて、既に魚はボート直下まで引き寄せられたが、2分程の処理なので元気一杯に首を振っているのが、伸びの少ないPEラインから伝わってきた。ロッドを腕でホールドして、膝を折って、ゆっくりと引き上げると、ロッドはかなりしなる。このロッドの優れている所は、この状態でホールドしていると、ロッドベントが緩み始め、魚をロッドがピックアップしてくれるのである。ゆっくりと、それを繰り返すことで、難なく魚は上がってきた。

60Lb!」とガイド氏はランディンググローブをぼくに持って来てくれた。

「ランディングして頂けませんか?」と聞くと、大きくOKをいう答えが返ってきて、25kgのナイスバディのGTはあがった。

 

 

GTもリリースに

翌日は、パリスフラットのバックサイドに行くことにした。ウネリは大きかったものの、追い風だったので、スムーズにパントボートは進んでいく。

うとうととしていると、1羽のカツオドリが飛んできて、ぼくの横に止まった。クリクリしたブラウンの目、柔らかい産毛、敷きつめたようなベルベットの感触の羽根、今年孵化した若鳥に違いなかった。

ぼくが首を横に振ると、興味深けに首を傾げる。近づこうとすると、ちょっと後ずさりするが、飛び立つ気配がないので、にじり寄って写真を一枚パチリ。

何尾かのGTとファイトしていると、沖にトリヤマが見えたので、ちょっと移動してエンジンを切ってキャスティングを開始した。

1投目からキハダがドボン、ドボンとトリプルヒットした。駒井君がかけた魚はだいぶデカイようで、クレイジースイマー90が、そのまま150m引き出されて切れてしまった。

横でファイトしていた斎藤君が、10kgちょっとのをランディングして、すぐにリリースした。ぼくもランディングして駒井君がキャストすると、すぐにドカン!とくる。1時間くらいフィーバーは続いた。

我々は5時に起きて6時にホテルを出発する。ロンドンという港から出港し、午前中はGT、昼はボーンフィッシュを狙い、夕方またGTを狙った。

夢のような7日間は、ぼくのような釣りバカにとっては、かけがえの無い心の水であった。

クリスマス島では、ボーンフィッシュに続いて、GTもオールキャッチ&リリースとなったことを報告しておこう。

 

 

 

参考文献 「海の科学―海洋学入門―」 柳哲雄著 恒星社厚生閣