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サムネイル37回

 

穏やかな日である。
「天気予報で乾燥注意報がでてますよ」と、スタッフのT君が言う。

空は少々ガスっているが、雲のない晴天である。石垣島は10月に入ったとたん、9月と比べると嘘のように柔らかい秋晴れが続きだした。

秋晴れといっても気温が30度近くあるものだから、Tシャツに短パンという、いたって夏っぼい服装でたくさんなのである。
「夏の光とやはり違いますねェ」と、6月にも訪れている加藤君が言う。

「蒸発するような光より透き通るような光の方が、珊瑚礁は美しいような気がするけれど」と僕。
25ftのボートは東の風6mにあおられながら、浅いリーフ内をゆっくりと流されてていく。
「水深はねェ、満潮だけど1mぐらいかなァ」と言うと、「え、そんなに浅いんですか。じゃ、すぐ根がかりしちゃいますねェ」と田中君はあわてて早くリールを巻きだした。

 

名古屋の友人、加藤、田中、林兄弟の4人は、10月の初めに3回目の石垣釣行となっていた。1回目の時は、バスタックルとフライでカスミアジやオニヒラアジといった小型のトレバリーを狙っていたが、前回ぐらいからGTに力が入り始めていた。
国内は、石垣島を含めてどこでもそうだが、GTフィッシングは、かなりのねばり強さと体力が必要で、これから書くことは、釣りに関しては稀と言ってよい。海底地形や亜熱帯におけるGTの性質を考えれば、ヒットしてもランディングできるのは外国のそれに比べてはるかに難しい。特にリーフエッジや浅い根が入り組んでいる所などは、ボートのフォロー無くしてこの釣りは成立しないような気がする。
「サンゴがびっしりと生きていますね」と加藤君が魚探代わりの、覗き眼鏡を見ながら言う。

 

 

礁湖が危ない!
10年前に大発生したオニヒトデの被害は、徐々に回復して、現在では90%近くの珊瑚礁が生き返った。が、しかし、オニヒトデの異常発生は海の汚れが原因の一つとされているし、また赤土や珊瑚噴流といった比重の重い微粒子は、珊瑚の上に堆積して珊瑚礁ごと破壊するのである。
今、石西礁湖には、西表島・小浜島架橋の計画がクローズアップされている。これは、10年の工期で珊瑚礁を掘削し橋桁を作り橋を架ける方法で、そこから発生した珊瑚噴流が、ヨナラ水道を流れる3ノット以上の潮流によって、西表島東岸海域、石西礁湖南西部の珊瑚礁に影響を及ぼすと推測される。
また、小浜島に計画されている18ホールのゴルフ場は、「自然にやさしい」をキャッチフレーズにしているものの、どのようにやさしいかは定かではない。今現在においてもこの礁湖南西部の水質汚染は深刻で、ヨナラ水道に流れ込む西表島東部の赤土やゴミ、島からの生活排水やリゾートからの汚水は、この浅い珊瑚礁の還元能力をはるかに越えていると言ってよい。

 


この島の南東部にかけて珊瑚はすでに死滅しているし、北東に位置するカヤマ島廻りの水質汚染は如何ともしがたい。その上、西表島・小浜島架橋が工期10年で着工され、海洋に隣接する18ホールのゴルフ場からもし農薬が流れだすことになれば、白濁する潮流と薬物汚染によって、石西礁湖の少なくとも半分は影響を受けると思われる。
一般的に言えば、干潟や浅い海岸にすむ還元バクテリアは多くの酸素と光を必要とするわけで、過剰な汚水や微粒子は光を遮り、栄養過多の状態で酸素を奪い取ってしまうと一気にバクテリア自体が減少し、さらに海草や珊瑚がつぎつぎと消えてゆくことになる。
例えば石垣島の北西部の海岸は、土地改良にともなう赤土流出で珊瑚や海草に致命的な打撃を与えていることは、あまり知られていない。この島は、世界的に有名な白保の珊瑚礁ばかりでなく島回り全部が美しい珊瑚礁で覆われていたわけで、これは無作為な森林伐採と農地優先主義のもたらした結果と言える。
それでも、まだ石西礁潮は美しく、淡い水色を光らせて僕の目に入ってくる。
「ここもね、ガラスの自然なんです。台風等の自然の脅威はどうってことないが、橋を架けたりゴルフ場を造ったりという方がこの海には本当の脅威なんだと思う」と僕が言うと、加藤君はそれに答えず黙ってロッドを振っている。
沖縄本島北部で珊瑚の天敵であるオニヒトデが大繁殖しているニュースを、地方新開の片隅に、何日か前に見つけた。 12〜13年前に起きたオニヒトデの大発生は、八重山諸島に及ぶ沖縄全海域の珊瑚を食い荒らすのに2〜3年しかかかっていないことを考えれば、由々しきことなのである。

 

 

バーブレス&オール・リリース
流れ始めて1時間ほど経っているが、まだ浅い珊瑚礁の上をポートは流れている。
「この辺はねェ、GTの15sぐらいのがよく入っているから、GT用ポッパーにするといいよ」と僕が言うと、加藤君が8.6ftのGT用ロッドを持ち出して投げ始めた。
ところが、一番前で投げていた林(兄)君は、まるで僕の声が聞こえなかったらしく、あいかわらずウルトラライトのロッド、小さなミノーを付けていたが、加藤君のポッパーで引き寄せられたGTがこのミノーにヒットして、有らん限りの速さでリーフエッジに向かって爆走し始めたのである。
「なんかでかい魚、止まりません!」と絶叫の林君は、ほとんどロッドを一直線にしたまま耐えているが、回りは笑いの渦で、もはやラインはすぐ切れてしまうかのようである。
「ライン追いかけるから、前に行ってね」アングラー共々、全員を前の方にやり、40cmたらずの波のくだけるエッジからゆっくりと外海に出たが、かえってロッドの柔らかさが幸いしたか、珊瑚にすれることなく、お魚は深場へと移動してくれたわけである。
「どうしたらいいですか?」と林君が困り果てた顔で聞く。
「ロッドをね、真っ直ぐ下にして、腕をね、上下させてポンピングするといいよ」と教えると彼はその通り始めたが、50mの水深の底にいる魚は、おいそれと上がってきてはくれない。
「ショックリーダーは、どのくらいつけている?」と僕。「30Lb、40cm」と彼。
「じゃ、ランディングはりリースギャフで、リーダーを持たないで1発でいくよ」と僕。僕はほとんどが尾のつけ根を持つハンドランディングで魚をボートに持ち上げるが、海がシケている時や今回のような時は、迷わずリリースギャフを使うことにしている。


40分後、ゆっくりと魚は20mぐらいのところで廻り始めた。
田中君が覗き眼鏡で海中を見てびっくり。
「10kgぐらいのGTだよ。スゲエ!」
「ウルトラライトのロッドでこの魚釣り上げたら、事件だよ」と林(弟)君もはやしている。

ところが当の本人はそれどころではなく、必死に上下のポンピングを繰り返しているわけである。
さらに20分が経って、魚は水深50〜60 cmのところまで浮いた。僕は素早く口にギャフを打って、ランディングすることができた。10kgのGTである。
「クイラであがるんだ」と加藤君。
「ロッドの概念が崩れたよ」と田中君。
「幸運が重なったんだね」と僕。
「なんかすごく嬉しい。30sや40kg、50kgのGTを釣ったことないけれど、多分それよりか嬉しい」と林君本人。
彼らにとってはたった2日の釣行であったけれど、加藤君は20kgのGT、田中君は18kg、林(兄)君はこの10s、そして林(弟)君は35kgのGTをキャッチ&リリースできたわけである。10年間プロとしてのガイド生活で、この海域のGTを減らすことなく現在に至ったことは、魚を傷つけないランディング方法、素早いリリ−ス、そして何よりバープレスでオールリリースの教え方が正しかったという裏付けに違いない。
「僕等は一番いい時に釣りに来たみたいだね」と加藤君が僕に聞く。
「そうですよ」といつものとおり、僕は答えたが、こう言えるのがいつまで続くだろうと思うと、ふと不安になった。
美しい海や川が汚れた海や川に変わるのは、見て見ぬふりをしていれば簡単である。汚れた海や川を美しい海や川に変えるのは、多くの人の努力と、忍耐と、そして自然に対する愛が必要であることは、言うまでもない。


 

活躍したタックル

ロッド: KUIRA7UL、 GIANT86

ルアー: シュガーミノー、クレイジースイマー100 、LONGPEN 1OO
リール: シマノ・ビーストマスター、PENN7500ss、タイワ・エンブレム6000
ライン: バリバススーパーソフト10Lb、モーリス10×10・6号