バーブレス&オール・リリース
流れ始めて1時間ほど経っているが、まだ浅い珊瑚礁の上をポートは流れている。
「この辺はねェ、GTの15sぐらいのがよく入っているから、GT用ポッパーにするといいよ」と僕が言うと、加藤君が8.6ftのGT用ロッドを持ち出して投げ始めた。
ところが、一番前で投げていた林(兄)君は、まるで僕の声が聞こえなかったらしく、あいかわらずウルトラライトのロッド、小さなミノーを付けていたが、加藤君のポッパーで引き寄せられたGTがこのミノーにヒットして、有らん限りの速さでリーフエッジに向かって爆走し始めたのである。
「なんかでかい魚、止まりません!」と絶叫の林君は、ほとんどロッドを一直線にしたまま耐えているが、回りは笑いの渦で、もはやラインはすぐ切れてしまうかのようである。
「ライン追いかけるから、前に行ってね」アングラー共々、全員を前の方にやり、40cmたらずの波のくだけるエッジからゆっくりと外海に出たが、かえってロッドの柔らかさが幸いしたか、珊瑚にすれることなく、お魚は深場へと移動してくれたわけである。
「どうしたらいいですか?」と林君が困り果てた顔で聞く。
「ロッドをね、真っ直ぐ下にして、腕をね、上下させてポンピングするといいよ」と教えると彼はその通り始めたが、50mの水深の底にいる魚は、おいそれと上がってきてはくれない。
「ショックリーダーは、どのくらいつけている?」と僕。「30Lb、40cm」と彼。
「じゃ、ランディングはりリースギャフで、リーダーを持たないで1発でいくよ」と僕。僕はほとんどが尾のつけ根を持つハンドランディングで魚をボートに持ち上げるが、海がシケている時や今回のような時は、迷わずリリースギャフを使うことにしている。

40分後、ゆっくりと魚は20mぐらいのところで廻り始めた。
田中君が覗き眼鏡で海中を見てびっくり。
「10kgぐらいのGTだよ。スゲエ!」
「ウルトラライトのロッドでこの魚釣り上げたら、事件だよ」と林(弟)君もはやしている。
ところが当の本人はそれどころではなく、必死に上下のポンピングを繰り返しているわけである。
さらに20分が経って、魚は水深50〜60 cmのところまで浮いた。僕は素早く口にギャフを打って、ランディングすることができた。10kgのGTである。
「クイラであがるんだ」と加藤君。
「ロッドの概念が崩れたよ」と田中君。
「幸運が重なったんだね」と僕。
「なんかすごく嬉しい。30sや40kg、50kgのGTを釣ったことないけれど、多分それよりか嬉しい」と林君本人。
彼らにとってはたった2日の釣行であったけれど、加藤君は20kgのGT、田中君は18kg、林(兄)君はこの10s、そして林(弟)君は35kgのGTをキャッチ&リリースできたわけである。10年間プロとしてのガイド生活で、この海域のGTを減らすことなく現在に至ったことは、魚を傷つけないランディング方法、素早いリリ−ス、そして何よりバープレスでオールリリースの教え方が正しかったという裏付けに違いない。
「僕等は一番いい時に釣りに来たみたいだね」と加藤君が僕に聞く。
「そうですよ」といつものとおり、僕は答えたが、こう言えるのがいつまで続くだろうと思うと、ふと不安になった。
美しい海や川が汚れた海や川に変わるのは、見て見ぬふりをしていれば簡単である。汚れた海や川を美しい海や川に変えるのは、多くの人の努力と、忍耐と、そして自然に対する愛が必要であることは、言うまでもない。
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