トップページへimg

サムネイル40回

フェリドゥ環礁釣紀

GT天国の島々

 

初めに書いておきたいことは、モルジブのリーフエッジは、かなりのドロップオフになっていて、時として、10m離れただけで、50m以上の水深があるところもある。これは、GTを釣るには、非常にやりやすく、エッジから魚を離してしまえば、よほどのミスが無い限り、釣り上げることができるのである。
その上、モルジブのGTはぼくの見る限りでは、一旦、表層を泳ぎはじめるとめったに根に入ることがない。
このことは、赤道近くのGTに皆、言えることであるが、北回帰線以北のGTは、一様に根が好きで、ヒットすると一目散にボトム近くまで潜ってしまうのである。もし同じ30sがヒットすればモルジブの方が数倍取りやすいということになる。
ともあれモルジブは、GT天国といって良い。もし我々がどんなに小さなGTであっても、大切に扱い、常にランディング後は、GTのリリースを優先に考えて釣りをするなら、少なくとも向こう10 年は、この天国は続くのではあるまいかと推察できる。

 

 

モルジブで1日のヒット回数は、沖縄あたりの1年分に相当すると言って良い。

しかしながら、GTフィッシングとは何尾釣ったとか、1日何パツ出たか、あるいは何sのGTを釣ったかということよりも、むしろ自分がルアーキャストする間に、どのくらい注意を払い、計算し、少なければ少ないなりに、多ければ多いなりに、ルアーキャスティングをして、ファイトをしたかという、質を問われると僕は考えるし、尾数だけをハナにかけた、外国狂いのアングラーになってはいけないと思っている。
国内の1尾は、モルジブの50尾に相当する満足感を、アングラーに与えていることは、僕自身が感じていることなのである。

もっとはっきり言えば、国内で20sオーバーを5尾釣ることは、モルジブで200 尾GTを釣ることよりも、一流のGTアングラーになる登竜門と言って良い。

日本人の釣りの基本は、忍耐忍耐また忍耐なのである。そして言うまでもなく、ルアーの基本はキャストandファイトである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムラク環礁から、朝、出発したマザーボートは北上し、昼近くにフェリドゥ環礁の南西部に錨をおろした。
モルジブの環礁は、だいたい東南にロングリーフと浅場が多く、西部から北部にかけて、多くのチャンネルとドロップオフが点在する。

これは、インド洋の地殻プレートが今も、北東に移動しながら、モルジブの近くにあるチャゴス海溝に島ごと落ち込んでいることを意味する。

島や環礁が徐々に沈下すると、その上にさらに珊瑚虫がせっせと珊瑚礁を作るわけで、それが何百万年と繰り返されてリーフの深いドロップオフが出来上がっている。

また、夏に強くなる南西の季節風はモンスーン海流を作り、インド洋を時計廻りに回る暖流のインド洋反流とともに、モルジブの珊瑚群を北西から南東へと貫いているのである。

このことが、西側と北側に多くの流れ込みとショートリーフを作ったのだと、僕は推察する。

だから、珊瑚群の北から西にかけては、GTの好ポイントが続いているのである。

マザーボートをフィッシングボートで離れて、環礁の西部の水道に入った。ガイドのランジットが、もっと向こうに有名なポイントがあるから行こうと言う。

ところが、チャンネルの少し沖に、潮が当たっている浅根がかすかに見えた。
僕は、すぐにそこに多くのGTがスクールしているのではあるまいかと思い、ランジットに言うと、
「スズキさんポイントOK」と快くボートを廻してくれた。

同行の上保君、高橋さん、そして僕の3人は、ペンシルとポッパーのショートパンピングでまず、表層のGTをヒットさせる。

そしてボートがポイントに近づかないようにランディングを繰り返して、再び根のエッジの深部にいたるGTを浮かせるのである。それを繰り返すのだから、ボートを回す度に、2〜3尾ドカンとバイトする。すぐにまたランディングして、またすぐにヒットする。結局、僕一人で同じポイントで15〜25sぐらいを6尾、1時間ぐらいで釣り上げた。

「いや、なんか同じポイントを、ショートパンプで攻めて、GTを浮かせてヒットさせるのって、病み付きになりますねぇ。」と上保君が嬉しそうに言う。

「昨日も、僕に同じやり方で、35sでしょう。その前の日も30s、この方法は面白いですね。」と高橋さんが言う。

「この根は、鈴木コーナーって名前付けます。新しい、超有名なポイントに、なるでしょう。」とガイドのランジットは、新しいポイントの発見に満足している。

 

 

 

夕方頃から、ちょっと海に風がでてきたみたいで、波がリーフエッジに、大きく砕けだした。

北の方からスコールの近付いてくるのが見えた。ちょうど大きな無人島のコーナーに潮が渦を巻きながら、風におされてハタハタと波うっているポイントを見つけた。
1投目に、海面に飛び上がったGTは、ゆうに30sを超えるものであるが、ルアーごと押し上げられて、フッキングには至らない。

2投目、3人のアングラーのルアーにそれぞれ魚影が走ったと思うと、ドカンドカンと、チェイスが繰り返されたが、僕のだけはバフゥ!!と、掃除機に大きな紙が吸い込まれたような、妙な音がして、渦の中にルアーは消えていった。
ワンテンポ遅らせて、思い切りバットエンドを腰に当てて、横アワセを5回続けざまにすると、恐ろしい力でロッドがググッと曲がり、次にラインがギューンと飛び出した。それは、乾いた引きではない。

蒸れた、べっちょりとした、重苦しい、トルクのある、その上出されるラインはスピードに乗っているのである。グイグイとそれは止めどもなく続くと思われたが、100mぴったりで、エッジのボトムに達したに違いなく、ピタリとラインが止まった。
僕はロッドのフロントグリップに両手を置き、腰を目一杯沈み込ませながら、ゆっくりと引きずり上げるべく、フルフットポンピングでリフトする。大魚は、ゆっくりと頭をこちらに向けて、泳ぎだしたかに見えた。上保君がハーネスを付けてくれたので少々楽になった。
3分後、青緑色の魚体が反射する海面にかすかに見える。

「何あれ、見たことが無い!?」と高橋さん。

ところが、底から上がってこないのである。
ドラッグテンションを上げて魚を押さえ込み、僕は左膝を後ろに引いて、デッキに落とし、さらに両手を巻き込むようにフロントグリップを握り直して、ゆっくりと膝を上げる。魚が完全に横になるのを見届けて、両手ごとロッドを絞り上げる。
ゆっくりと海面に浮いた大魚は、オデコに大きなこぶが飛び出ている。
「ストロングフィッシュ!!」とランジットが叫ぶ。
「鈴木さん、何ですか?」と高橋君。
「ナポレオンフィッシュ」と僕。
「どうやってランディングしたら良いですか?」と上保君。
「唇にギャフを打って、重いけど持ち上げてくれる?」と僕。
ところがギャフをもって持ち上げようとするが、一人では持ち上がらない。結局3人がかりで、ボートデッキに上がった魚は巨大なメガネモチノウオ、通称ナポレオンフィッシュである。

魚体の割に重く滅多に釣れない珍しい魚である。
「40歳以上だろうね。すぐにリリースしてあげようよ。」と僕。
「ロングペンにヒットするんだね!!」とみんなが驚く。
「30pあるロングペンが小さく見えるね。 1m30pぐらいかな?」と答えた。
「モルジブで一番高い魚、1s46ドルですと船長が言っている。」とランジット。
 みんなで写真をとって、触らないようにして、すぐにリリース。
「僕と同じくらいの歳の魚釣っちゃったね。もう釣られるなヨ。」とご同輩のよしみで見送った。
ナポレオンフィッシュは和名「メガネモチノウオ」と言って、目の近くに赤黒い刺青の様な糸模様がある。またウロコが大きく、このサイズになると、直径15 pぐらいあるかと思われる。
幼魚の時代は、インリーフにいるが、大きくなるとリーフの外に出て、タカサゴやフエダイ等を襲う。

ベラ科最大のお魚で、成長が著しく遅いので、かなり貴重な魚と言って良い。また外部はヌメリで覆われているので、魚を保護する意味でも、あまり動かさず、手で触ることは避けた方が良い。

 

釣り上げた直後に、モルジブ名物のスコールが降りだしたので、マザーボートに戻った。
明朝から、釣りながら北上して、南マーレーのリゾートホテルに向かった。
夕方近く、リゾートホテルに着くと、1週間一緒だったクルーと一人一人握手して別れた。

不便さゆえの快適さが、何となく居心地が良かっただけに、寂しい気分になった。
砂浜では、イタリアンのネェちゃんが、ビーチバレーをしている。
フロントに入るとエアロビクスの軽快なリズムが、ヨーロッパ人の黄色い歓声と共に聞こえてきた。
その日はうまくて豪華な夕食を食べ、白ワインを飲み、パッションフルーツやマンゴーなど、デザートをたらふく食べたが、どうもマザーボートで食べた、おつゆたっぷりなインディアンカレーが、青い海とともに目にちらついたのである。

そしたら、どっと疲れが出てしまってすぐにベッドにもぐり込んで寝てしまった。
夢は大海を駆けめぐり、まだ見ぬ巨大なGTが天に舞う夢であった。

 

 

 

活躍したタックル

ロッド FISHERMAN B.G.JACK7.8  BIG GAME 8.6、GIANT 8.6
ルアー NEW GTPlO5、クレイジースイマー105、ロングペン100

リール シマノ・ステラ10000 ダイワ・EXi5000、PENN7500SS
ライン モーリス・アヴァニー50Lb