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サムネイル49回

ハワイ島釣紀3

ジギングワールドとボルケーノ

 

明るい風である。まばゆい光は、紺碧の海に乱反射し風をさらに明るいものにしている。

石垣島の老海人(漁師)は、風が見えると話してくれたことがある。
遠い昔、風は海を渡る力であったに違いなく、風と光りと星と波と共に、太平洋の海の民は暮らしていたに違いない。

 

 

 

マウナロア山とプーファラレイ山とで、山たてを終わると、キャプテンのスタンレーは、相変わらずの笑顔で「OK」と言う。

110ファトム(200m)に連なる、屏風状の断層は、彼のとっておきのポイントらしい。新しくデザインされた超深ポイント用のジグは、多少潮があっても、ラインは真下に伸びてゆくのである。
魚の形をしたシリアスなジグは、それはそれで良いのだが、あえてユーモラスな顔とシンプルに、流れるようなボディデザインにしたのは、より面白さと釣りのうまみを引き出すためであった。

 

 

一投目、ジグが軽く動き出すと、すぐにアタリが追ってくる。何人かのロッドが1分もしない内に、一斉に曲がった。相も変わらない、すごい海である。

美しい女性の瞳の中の光りのように透明に、澄んだ海の深部から、魚はゆっくりと上がってきて、やがて、白く輝き出す。揺れる魚体が、海面に浮き上がる寸前に見せる、移り変わるミステリアスな光の色調が、僕は大好きである。さらにもし、柔らかい風がさざ波をたてていたとしたら、なおさらである。

 

2日日は、スタンレーが休みなので、大型のクルーザーで出港となった。ポイントは微妙な違いを見せるものの、空港沖の良い所を選んでくれているらしい。いきなり、小学5年生の平山清和君のロッドが、大きくしなると、15分のファイトの後、35Lbのカハラを釣り上げた。
「ひざの使い方、フットワーク、鈴木流のファイトをマスターしたみたいですね。」と平山さんは親バカを決め込んでいる。
「3月に撮った、ハワイ島のジグビデオで、すごく簡単にファイトしますねェという声が多かったんだけど、要は、理論立てられたファイトのポジショニングをとれるかどうかなんだ。体重が重いとか軽いとかいうことを抜いて、素直に見てみると、わかるはずだと思うよ。」と僕は答えた。
「何sの魚を釣ったとかということじゃなくて、どのくらい質の高いファイトをしたかということ?」と平山さんは首を傾げる。
「結局、合理的で、理論的なポジショニングと、エアロビクス的なフットワークのコンビネーションのファイトは、美しいと思うよ。」
「子供がいきなり300gジグを200m落としてるんです。ロッドと体格のコンビネーションがピッタリだと、早くはないけど、柔らかいリズミカルな動きになるんですね。」と妙に平山さんは、納得している。

今回は、モンスターJr(ジュニアandレディース)というショートロッドを1本、テスト用に作ってみたが、かなり良い結果を生んだみたいで、後日になるが沼津沖で、清和君がこのロッドで50Lbのアブラソコムツを一人で、釣り上げたという報告を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本人エコツーリズムガイドの新谷君に誘われるまま、どういうわけか、数日の釣りが終わってから、キラウェア火山の火口で一泊し、海岸線からマグマが一気に海に落ちている所を見に行こうということになった。
早朝、幾つかの火口を見て回ってから、一度島の東側に降り、溶岩が道を所々ふさいでいたが、4輪駆動車で行ける所まで行った。

そこからさらに海岸沿いに、徒歩で南下すると、一時間もしないうちに、荒涼とした、出来損ないの大地が現れた。それは、せめぎあい、溶け合い、ぶつかり合って、黒々と拡がっている。硬く、熱く、無機質な岩は、踏みつけた足もとから、カサカサと焼け焦げた炭のようにくずれ、風にキラキラと光るものが伸びていった。それはまた、大地に落ち、音もなく、細かな光りの点となって砕けた。
「ペレの髪の毛ですよ」と、新谷君が言う。

実際、細い湾曲した縮れた形状が、岩のいたる所に見える。
「グラスファイバーですよ。地球はセラミックから始まったんです。この辺は、今年の5月に、マグマが海に落ちたあたりです」
海側の黒い岩盤の間から、ところどころ白くにじみ出ているものがある。
「塩と硫黄です。ボルケーノは、どんどんとマグマを出してきているのです。時には、川のように、時にはアメーバのようにゆっくりと動くのです。」と続けた。さらに2時間歩くと、噴煙は、すぐ側まで追っていた。
「このあたりは、大地が突然割れて、再びマグマが噴き出してくることがあるんです。本当は、僕等の立っている足の下数mに、溶けたマグマが流れているはずです。」と言って、これ以上近づくのは危険だと彼は制した。

キラウェアの火口からここまで、溶岩の長いトンネルがあって、マグマは一気に海に流れ込んでいる。
海に流れ落ちるマグマを見ていると、火と水が一瞬溶け合ってから、煙とも水蒸気ともつかない、強いて言えば、もくもくとした雲が天に向かって、吐き出されている。

もしかしたら、お互い相いれないものでも、時として一瞬溶け合うことができるのだろうかという概念にとらわれた。そうして見ているうちに妙な安らぎを覚えはじめると、マグマと海水の交わりこそが、地上に初めてシアン化水素、硫化水素といった、生命の基本となる物質を生み出したのではないかと思った。

やがてそれは核酸、アミノ酸を経て、 20億年という長い時間と、月の引力と太陽の光と、海というゆりかごが、生命の基本を作ったのだろう。

 

 

 

 

3時間かかって、歩き始めた地点に戻って、そこから帰路についた。途中ヒロという、アメリカで一番雨の降る町を横切ると、SUISANという横文字が港のそばにあった。すかさず新谷君が、
「日本人が昔市場をね、作った所ですよ!」と、僕の方を向いて笑った。

僕は一度、暗紫色の水平線の方に目をやってから、もう一度見ると、SUISANという字が、「水産」であることに気づいた。
「なんか住みやすそうな町だね」と言ったものの、自分でもよくわからないことを言っているんだなと思い、黙りこくってしまった。
べっとりとした湿風に、しばらく帰っていない自分の住んでいる島を思ったのだろうか、それともあまりにも明るい太陽のふり注ぐハワイ島の中で、暗闇に閉ざされようとしている町に差しかかった時、やっと自分の目に馴染みを覚えたのだろうか。

車はやがて海岸に沿った、公園の近くを走り始めると、向こうから、あまりにもアンヨの長い白人の若いオネェチャンが白い鉢巻きをしてジョギングをしてくるのを見た時、
「やっぱりおれは、日本がいいや」とつぶやいたが、声にはならず、再び暮れかかった紅色の空に目をやった。

 

 

使用タックル

ロッド FISHERMANモンスター5'6” Mアンパージャック6'0”
リール ダイワEXi6000 シマノステラ10000  PENN9500SS

ルアー FISHERMAN クレイジーロング300g(試作)
バスディスーバーディープ300g・200g

ライン モーリスアヴァニ50LB

ライントリートメント 天龍アパチ