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サムネイル50回

モルジブフサァル釣紀

40キロ」という名のGT

 

いつもなら、涼しい影を作っているヤシの木が揺れている。風が吹いているのである。
「1カ月ぐらい雨ばかりなんです」とオーシャンパラダイスの上田清美さんが少し残念そうに言う。

「インドネシアの煙もやっとよくなったんですけど、乾期の北西の風にならないから、ずっとぐすぐずしちゃって…」とつづく。
「僕はねェ、すごい晴れ男なんですよ!」といってみて、カッパを忘れてきてしまったことに気付いて、少し遅れて笑顔を見せた。

「助かりますよ…」と、女性プロダイバーらしい、はつらつとした顔に彼女は戻っていた。僕は外国に行って雨に降られることが少なく、特に南の海にでかけるときは、いつも晴れである。人間、信じるものは救われるというのは本当らしく、翌日から僕のいた2週間ほど、ドンピカの天気が続くことになる。
 同行のフリースタイルの筒井カメラマンとは、ここ数年一緒に釣りに行くことが多い。彼はカメラマンといってもビデオの方が主で、時折スティールもこなしてくれる。石垣島「ジャイアントを追って」、クリスマス島「トレバリージャイアント」、ハワイ島「スーパージギング」と続き、モルジブではGTフィッシングのヒットシーンの連続のビデオを作ろうという企てで、同行してきているのである。
 この人の粘り強いフットワークと、カメラマンとしての忍耐にはいつもながら敬服しつつ、釣り師としてはついつい休むことなく、彼の術中にはまり気が付くと一日中釣り続けることになるのである。

 

 

 

GTフィッシングも4日日になると、手のひらに軽い筋肉痛を覚えながら、「ああ、僕もあと2日で47歳になるんだなァ」と、考えつつロッドを振り回していると、だんだんと無口になってしまうが、本当は、昨日30kgオーバーを1尾釣り上げて気を良くしているのである。
僕はフェリデューアトールの西の瑞、フサールファルーというロングリーフからさらに南下し細いチャンネルを2時間ほど釣り続けている。
11時を少し回ったところで、それまでベタ凪だったリーフエッジが少々サワサワとしてきた。大潮の引き潮にあたるこの時間は、日中にもかかわらず潮の流れがピークに達し、各コーナーに小魚の群れを浮かしている。
モルジブの特徴の一つであるが、浅いリーフから一気に落ち込み、水深40〜50 mに達することはザラで、ライトブルーと深いウルトラマリンのコントラストは実に美しい。

一つのチャンネルを通りかかった時、エッジ沿いに小さなトリヤマがこちらに移動してくるのが見えた。同調させてルアーを小魚の群れに投げて、スピードの乗ったショートシェイクでロングペンを動かすと、その巨体は真下から突き上げ、ルアーに襲いかかり、周りに水しぶきを残して海面すれすれで反転した。
次の瞬間、リールはステラ独特のアドレナリンサウンドで悲鳴をあげた。

キャプテンのハッサンは素早くポートを外洋の方に移動したので、さらにクリック音は激しさを増した。大魚はその巨体をエッジ沿いに泳がせていく。ラインはさらに出されたが、その大きさゆえに浅いリ一フの中には入れないだろうと僕に気付かれたのは、彼の不運である。
やがてラインは、150m出されたところで止まった。魚と自分の位置のリーフに対する角度からロッドワークを決めて、GTを沖におびき出す。

外洋より深い所に導きながら、適当な所で鈴木流のリフトポンピングを試みる。
紺碧の海の中に白い光の点が見えると、ゆらゆらとゆらぎながら、少しずつ大きくなってくる。しかし、なんと短いけれど、長い時間なんだろう。
やがて海面にその巨体が実像を結んだとき、ぼくは思わず嬉しさの余り「40kg!」と叫んでしまった。

実際この大きさに会うのは多良間島以来で、4年ぶりである。子供のようにはしゃいでいる自分にその時は気付く由もない。

 

何千というGTを見てきたし、いったい今まで何尾のGTを釣り上げてきたか分からないけれど、とにかく4年ぶりの再会なのである。
「オルベリーレコードだよ。僕も12年釣りのキャプテンやっているけど、初めてのサイズだ。40kg以上はある」とハッサンはいう。
「やった、嬉しいです。ビデオで40kgのGTのヒットシーンを撮ったのは、僕が世界中で初めてですよ。それも鈴木さんの肩ごしにカメラアングルを移動してドカン! 8分30秒リアルタイムで行きますからね、覚悟してくださいよ。今日は僕がビールおごりますから」と僕より筒井君の方が喜んでくれる。
 釣り師としては、光る風を感じながら、今度は、50kgだとうそぶいてみたものの、それが狙って釣ることが、どのくらい大変なのかは、自分自身が身にしみてわかっていることなのである。

 

僕は、どうも人の釣った魚の重さはピタリと当てるくせに、自分の釣った魚となると、釣り師になってしまう。だから今回のこの大魚に「40キロ」という名前を付けたのである。
男は子供となり、夢は、海を空を走り、天空の星を、手は届かなくても、掴もうとする。やがてワープして、混沌とした中で、星を掴むのだけど、それは現実なのか、夢なのか、気が付かないのが、釣り師の冒険なのである。
「本当に40kgだったの?」と意地悪な誰かに念を押されると、僕は多分、パチリとまばたきをして、首を縦に振り、口を閉ざしてにっこりと笑うに違いない。

 

 

 

活躍したタックル

ロッド  BG.OCEAN H62  GIANT86 BIG GAME88

リール シマノ ステラ10000H  ダイワExi5000

ライン モーリス アヴァニ50Lb / 60Lb

ルアー LONG PEN100 CRAZY PEN90 CRAZY SWIMMER105 K-ROGsmart