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サムネイル52回

大空の島 ランギロア環礁釣紀

 

 

 

海に来て空をいきなり見ることは、あまりない。

なぜなら、釣り師は青い空を見るより、青い海に目が行ってしまう。

その青い海に白い雲が映ると、時々ぼくはそのまま視線を上空に移すと、眩しい太陽にクラクラとする。その後しばらくリーフエッジの砕ける白い波を見てから、やっと青空に目をやるのである。

「ランギロアの名物は大空なんです」「ここの環礁は南太平洋で一番大きいんです。だから、ランギロアという意味も、ランギが空でロアが大きい、大きい空ということなんです。内海でも向かいの島が見えないほど程遠い、どこを見ても海と大空だけが見えるんです」と、ぼくの泊まるホテル、キアオラビレッジの日本人スタッフの飛田秀美さんは言う。

 

多分、帯状になっている島々に名前が付いているのだろうが、ぼくにはここがランギロアだと教わった。

この世界で二番目に大きな楕円には水道、いわゆるチャンネルが2つしかなく、その一番大きなチャンネルで釣りをすることになったのは、ホテルのシェフ、ドミニクが誘ってくれたからである。ドミニクは大の釣り好きで、手作りだが外洋に出られる18ftほどのボートを持っていた。

水道は300mぐらいの幅で激流のように流れている。更に、外洋からのうねりも加わると、高さ3~4mの上部が砕けている幅の短い波が、全く動くことなく流れによって作り出されている。そこに巨大な体長4mぐらいのハシナガイルカがジャンプしながら、波乗りを楽しんでいるのだから、ぼくは感激してしまった。

ぼくは、水道の中ほどの灯台の前にある甲板状の波が打ち寄せる岩の上に立っている。隣でドミニク達が長いロッドに飛ばしウキを付け、更に40cmぐらい8号ラインを結んで、その先に小さなタコベイトを付けて投げているのである。多分、大型魚が好んで食べているマアジの一種を狙うのだろう。

 

ぼくは10ftのGTロッドにハイスピードのリール、そしてPEの40lbを250m巻いた。ルアーは遠投が出来て、しかも波打ち際でサンゴ礁に掛かり難い26cmのロングペンを使う。

大空の島は、ただただ茫洋とした、しいて言うならば、あっけらかんとした空と一直線というよりも、地球の丸さを感じるような、柔らかい凸曲線の水平線が、海と空を分けているのである。海はというと、純粋な薄青色に空の雲の白さや、更に青さを移しながらかすかな風によって、それらの色の少しづつ移り行く色彩のシンフォニーをぼくの目に届けてくれる。ランギロアは東西に80km、南北に30kmといった楕円の環礁で、ぼくの泊まったホテルは北側に位置している。

 

30分ほど投げたところで、ほんの手前に大きな影が1尾近づいてきたが、それより先にルアーは手元まで来てしまっていた。素早く返して、今度はショートパンピングでゆっくりとアピールすると、4~5尾の黒い背の魚が交差しながらルアーに向かって突進するのが見えたが、浅瀬に来たところで消えてしまった。

すぐにきり返して、今度こそと思い、初めは勢いよくペンシルの軌道を作ってから50mぐらい近づいた所でショートパンピングすると、ほんの30mの所に1m50cm近いイルカの背鰭をピンとはった、4~5尾の魚の群れが1尾のエサを全員で奪い合うような形でルアーに襲い掛かろうとした。

 

「ウルア!!」と、隣でドミニクが叫んだような気がしたが、ぼくにはその魚が40kgは優に超えているGTであることは判っていた。その内の1尾が呑み込んでゆくのをスローモーションのように見ていた。

巨魚が反転した瞬間、我に返り鋭く合わせると、大魚は水深1mぐらいの所で止まり、もう一度口を大きく開け、ブルブルと頭を振っている。ぼくはこの間にロッドエンドを腰に当てて次に来る衝撃に備えた。

ギューンと一度ラインが、ロッドのトップガイドから魚と一直線の針金のようになり、次にロッドが弓のように曲がっていく。そして、衝撃波がぼくを襲ったと思うと、リールがあの素晴らしい悲鳴を上げ、絞り込まれて更に加速したようにラインが飛び出てゆく。すぐにごくはドラグを緩めようとした。それは磯で、特に近くでヒットした場合、強くロッドを引くと、そのまま魚が深く潜ってしまうからであるが、それでもラインは角度を増していく。仕方なく、ベールを戻してラインをフリーにしようとした瞬間、ラインがフワリとした柔らかさを取り戻すのがわかった。ラインブレークである。

後でわかったことだが、ぼくの投げていた前は、水深5mの瀬が10mぐらい続いていて、その先にもう一度少し落ち込んで、今度は10mぐらいのテラスがあって、その先が50~60m落ち込んでいる。いわゆる二重エッジとなっていたのである。ぼくは最初のエッジをかわすことは出来たが、この第二のエッジでラインがどうも切れたらしい。

呆然とするぼくの足元に白く砕けた波が打ち寄せる。膝が少しワナワナと振るえているのを感じながら、すぐにシステムを作り直して、再び投げまくったが、日没までの2時間、全くバイトは無かった。

 

次の朝、ドミニクと彼のボートでチャンネルの外側に出た。ジグで狙うと、一投目に何か魚が掛かって、20mぐらい巻いたところで大魚がルアーごと丸呑みにしたらしく、けたたましいドラグ音に変わって外れた。

「トンブロイ(イソマグロ)かシャークだよ」と、ドミニクが言う。

すぐにジグを落とすと、50mの所でルアーが沈まなくなった。20kgのナポレオンフィッシュである。その後、キハダ、バラクーダ、サメ、トンブロイと次々に魚が上がって来た。

キアオラホテルのコテージに一人というのは余りにも寂しいことなのである。なぜなら、ここは世界的にも有名なハネムーンリゾートだからして、殆ど全てハネムーナーのカップルで溢れている。

釣りのためとはいえ、さすがに夕食は一人で食べるのが気が引けて秀美さんに付き合ってもらった。

同行の東くんは新しい釣りのツアーを作るために、他のホテルやペンションを泊まり歩いているものだから、初めの2日間は、この素晴らしいリゾートの夜は一人で過していたのである。

 

食後は水上のバーで、ビールを飲んでいると、周りはちょっと歳をとったカップルがゆっくり過している。さすがにハネムーナーがいなくなっているし、足の下が一部ガラス張りになっていて、小さな魚に混じってカスミアジやコバンアジが寄っている。耳に聞こえてくるのはフランス語の優しい響きである。小瓶で2本ほど一気に飲んでみると、もともと酒にあまり強くないぼくとしては、酔いがすぐに回ってしまった。

電球のバタ臭い赤い光、チークの内装、籐のゆったりとしたソファー、ゆっくり流れる風と時間、突然目の前に青いランギロア(大空)が広がったと思うと、海の底から大きな口がルアーに襲い掛かる。ぼくは思い切り合わせると、顔に飲み掛けたビールの泡が飛んできて目が覚めた。

 

活躍したタックル

ロッド GIANT10・MONSTER56・BG OCEAN H

ルアー ロングペン・ケロッグスマート・クレイジーロングジグ320

ライン モーリス 1010 アヴァニ40lb

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