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サムネイル53回

キアオラソバージュ島釣紀

野生へようこそ!

ランギロアをトリマランのヨットで朝出港すると、横断するのに2時間ほどかかった。白い砂浜は、ほとんど波らしい波はなく、犬が駆け寄って尾を振るのが見えた。

ソバージュは500mほどの細長いサヤエンドウのような形をした小さな島である。そこにロッジが5軒海岸に沿って並んでいるだけの施設がある。

小さなカヌーが寄って来て、荷物を運ぶのだが、スタッフはウゴという体格のよいマスターと、後でわかる事であるが料理のとても上手いセリーヌという奥さん、素潜りの達人ティエボ、通称ママの4人。それにナポレオンをいう耳の左右がピンとしていて、足はかなり短いが綺麗なブラウンの毛並みを持った犬、グンカンドリに、ミミという猫である。

 

よく慣れたグンカンドリというのも珍しい。もちろん、彼もスタッフの一員。

 

 

島には電気の施設が無いのだから、当然ロッジはランプということになる。タヒチのパレオを腰に巻いて過すと、これがなんとも快適で病み付きになってしまった。

夜など、ぼく達の他は2組の新婚さんがいたが、男は全員パレオ姿でタヒチアンダンスの名人という。ぼくもウゴから踊りを教えてもらった。

体にポリネシアの柑橘系オイルを塗ると、蚊も寄って来なく、日焼けした肌がランプのオレンジの炎につやつやと映し出されるものだから、何となく若返った気にもなった。

竹と籐とワラで出来たコテージは、なんとなく快適である。天井のあちこちに空が透けて見える隙間があったり、上手く熱気を逃がしてしまう工夫が、そこら中に見られるからである。

その上、前面にある大きなガラスの無い窓のむこうには、ヤシの木陰から、ラグーンとの青い光の海が広がっているのである。

麦わらの屋根の下で、午後の一時は釣りなど忘れて、少し汗ばんだ体を大きなパティオの敷いてある大型のベッドに横たえて夢想するのも良い。

ぼくは、心地よい眠りの中で、緩い大きなうねりの中に自分が風と星を感じながら、旅をしている夢を見られるかもしれない。

午後3時、まだまだ明るい白砂浜は、ラグーンの青海に溶け込み、純粋な南太平洋の白を感じさせてくれるのである。

入口近くのベッドで東君がむにゃむにゃと寝言を言いながら、気持ち良さそうな顔で寝ている。

ぼくは少し目を覚まして、遠くに聞こえる波音が、椰子の木のフィルターを通り、心地よいリズミカルな和音に変わっていくのを感じていると、またゆっくりと目を閉じてしまうのである。

 

竹と籐とワラで出来たコテージは、うまく熱気を逃がす工夫がされていて、とても快適である。

 

午後4時、ウゴが釣りに行こうと誘いに来た。

夕方、ペンシルを思いっきり遠投する。ハラハラをしぶきを上げて、波に乗りながら近づく。バシャンと来て中型のバラクーダが波の上に飛び上がった。魚は勢いよく右往左往してから、最後は波に押し流されるようにリーフの上に上がってしまった。2〜3投目に、今度はカスミアジがヒットして、10秒ぐらいで同じことになった。

ひたすら波に向かってルアーを振っていると、自分の体がふわりと浮くような感覚を覚える。足は砕けて勢いよくさせてくる流れに流されまいと踏ん張っているのだが、心はこのままこの波と共に海の中に入り込んだら気持ち良いだろうなどと・・・。

ウゴもぼくの86のロッドを借りて、ひたすらクレイジースイマーを投げては、もの凄い勢いで巻いている。

「あんなに速く巻くルアーじゃないんだけれど・・・」とぼくが教えてあげようとしたが、フランス語がわからない。

「フミオー!」とウゴが叫ぶ。見るとロッドがヘの字に曲がり、ラインがどんどんと沖へ出ているらしい。ウゴははすに構えて、ロッドをしきりにあおっているがラインが巻けない。彼が大声でもう一度叫んだ時、ロッドは天に真っ直ぐに伸びて動かなくなっていた。

「でかかった、すごかった・・・」とフランス語で多分言っているだろう言葉を、ぼくの所へ来て言って、しきりに両手を広げる。すぐにもう一度ラインシステムを作ってやると、ぼくのタックルボックスからケロッグスマートを取り出して投げ始めた。そしてまた、例の調子でファーストリトリーブである。また、何か掛かってラインごとルアーが行ってしまったらしい。今度はぼくの所には寄って来ず、少ししょげた様子で内海のプールに座り込んでいる。

 

 

 

ティエポがサザエを見つけては、ナイフでぐるりと中身だけを取って集めている。

「フミオ、チャンピオン・・・」と訳のわからない事を言って、サザエをぼくに突き出す一個恐る恐る食べると、プリプリしたサザエの肉が、海水の塩分を溶け合って口の中で弾けた。

しばらく大魚のかからないリーフエッジの横の水溜りで小魚を見ていたら、ウツボが足の近くまで来て、ぼくと目が合った。ぼくは俯き加減での顔でペロリと舌を出すと、ウツボは体をクネクネと震わせてから、素早くどこかの穴に入って、それきり出て来なかった。また、ぼくは思い立っていそいそとリーフエッジに向かい、夕方までルアーを投げた。

夕焼けの空に、満月が少し青白く光っている。ぼく達は人数分のサザエをバケツに入れて、とぼとぼとボートに帰った。

部屋のランプの光で一杯やっていると、「釣れないとヤバイですか・・・?」と東君がビールを飲みながら言う。ぼくは飲みかけたビールをグイと飲んでから、少し間をおいて、「釣れない釣も時として良いものです」と答えた。

ナポレオンがやって来て、ぼくの椅子の近くでしょげた様子でうずくまった。新婚さんに追い出されたのだろうか?遠くでウゴがポリネシアの歌を歌っている。時折、セリーヌの明るい笑い声が聞こえる。砂浜の向こうに月光に照らし出された穏やかな内海が広がっていた。

「キアオラソバージュ、野生へようこそか・・・」と東君が呟いた。

ぼくはそれに答えず、目をつぶって寝たふりをしていた。

 

リーフからペンシルを遠投すると、カスミアジやバラクーダが飛びついてきた。

 

島の周りには、ほとんど波らしい波がない。太陽が西に沈み、その後から夕闇が静かに迫って来る。

 

 

活躍したタックル

ロッド GIANT86・GIANT10

 ルアー ロングペン100・クレイジースイマー105

ケロッグスマート

ライン モーリスアヴァニ40lb、50lb