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サムネイル54回

台湾曽根釣紀

桃の節句の日本記録

ゆっくりと石西礁湖を抜けてパナリ(はなれ)と呼ばれる上地島、下地島西側を通り、西表島の南部の丘、南風見田の沖にさしかかる。
東がノボリ、西がイリで太陽にちなんでいるのに対して、南はハイで北はニシというように風からきている。漢字の呼び方というより、情景を漢字に当てはめているわけで、南の風となると、ハエとなって、この地名は南の風を見る丘と、なんともおおらかではないか。
また、6月から7月にかけて吹く南風を夏至南風“カーチバエ”10月に吹きはじめる北風を新北風“ミーニシ”、そして 3月に繰り返し寒冷前線が通る時の突風を二月風廻“ニンガチガチマイ”と言い、漢字を眺めて読んでみるとなるほどということになる。沖縄では風をカジと言うが、読まないことも多い。

 

私たち、FISHERMAN BGクラブのメンバー6名は、石垣を朝の7時に出て、

小浜島で吉沢さん、岡田さんと待ち合わせてすぐに出港した。吉沢さんとは10年来の知人で、共に八重山の遊漁船のキャプテンである。彼は小浜島を中心にトローリングでカジキを狙うことが多く、今回の釣行も昨年7月の与那国でのカジキ釣り大会前日に、ジグを私たちとやったことがきっかけとなった。
岡田さんはその際の同行者で、以来、小浜島に移り住んで釣りに明け暮れ、なかなか女性とはあなどれない釣り師に成長しつつある。実際、先月40kgのイソマグロをジグで釣り上げて、JGFA女性部門の日本記録と認定されている。
午前9時近く、仲ノ神島の北を通った。長いクジラのようなおおらかさをもっている、と僕は感じているのだけれど、実際は、のこぎりの歯のようなとげとげしい岩肌を見せている。
どうしてクジラみたいに感じるのかは、僕自身判らないけれど、たぶん釣りで何日か泊まったり、島の周りを潜ったり、この島に住んでいるカツオドリが船に遊びに来たりしていることが、包容力と親しみを感じるようになったのではあるまいか。
また、神の降り立つこの島は、海鳥の島でもある。夏の繁殖期には、カツオドリ、アジサシが朝早く、一度無数に天に舞って、小さな黒雲の塊となって海の上を移動していく。その下にはカツオ、ツムブリ、キハダ、GT、カスミアジ、時には黒マグロと賑やかなのである。

 

仲ノ神島3ノ根で一度、風の様子を見てから、南下して、目的地、台湾曽根に向かう。午後1時、魚探の反応に500mの地形が映りだしたと思うと、スロープ状にみるみるかけ上がり、160mをさした。しばらく様子を見ながらゆっくりと進み、魚の反応を見る。遠くにマグロ延縄船らしい船影が見え始めるとかすかに魚らしきものが魚探に映り始めた。
吉沢さんと2人でポイントを決めた。僕は、320gのニュータイプのジグをすぐに海に落とし込んだ。リールからはアヴァニ独特のスーパーブルーのPEラインが滑らかに直下に出ていく。
「ラインが真っ直ぐに落ちていくね」と吉沢さんが近寄って来て言う。
「ちょうどね、開発まで2年かかった」と僕は、もう海の底に向かっているジグを見つめて答えた。
小笠原、ハワイ、与那国と何回となく改良を重ねて、この新しい、非対称のジグを作りだしたのである。
「大魚は、自分の捕食している魚の長さを見逃さない。長さこそが大魚に一番アピールする」とは、僕の持論である。

僕はいつもルアー設計をする時に、もう一つの持論、スライダー理論を加えて考えている。スライダー理論は、ルアーの左右への振り幅である。
大魚を釣りたくて、石垣島に移り住んで海と向き合う遊漁船の船長となり、再び釣り師に戻り、出した結論が、長さと左右に大きく振幅するルアーの動きなのである。このジグには沈みの速さ、長さ、スライダーな動き、リトリーブの軽さ、絡みにくさ、そして何より大魚が釣れることが要求された。
一流し目、僕のロッドにカツカツと小さなアタリがきて、ぐぐっとカンパチ独特の引きに変わる。すぐに合わせてリフティング。14kgのヒレナガカンパチが上がってきた。
船首でやっていた橘君や棚村君のロッドも曲がっている。二流し目水深120mの所に強い反応があったので、ジグを130mの所で止めて、一気に引き上げる。
横で釣っていた岡田さんがロングジグに女性独特のしなやかな動きを与えた瞬間、ロッドが一気にしなってラインが飛び出してゆく。彼女はプレッシャーをかけながら、ラインが止まるのを待って、リフティングを始めた。一進一退の攻防が10分ほど続いて大魚は海に浮いた。

 

 

 

「ねェ、ヒレナガカンパチの女性の日本記録魚じゃない?」と吉沢さんがJGFAのイヤーブックに目を通す。50Lbラインの項は、あの奄美の女性釣り師、山下一美さんの記録である。80Lbラインは彗星のごとく現れて消えた、今は亡き松本ゆき子女史である。こういう女性たちが明日の女の人のための海のルアーの扉を開くわけである。
「このジグ軽いし、絡まないから。それにこんな大きな魚」と320gのジグをひょいと持って、岡田さん。
「やられた!」とFISHERMANクラブのメンバー。
「やっぱりここはすごい」と僕。
「なんか宝石を見つけたような、久しぶりにうきうきするポイントだね」と吉沢さん。
帰りの時間を考えるのなら、釣りは2時間ぐらいしかできないけれど、12尾のヒレナガカンパチ、その他いろいろな魚が釣れた。もしかしたら、このポイントは沖縄のジグの世界を変えてしまうのではと直感しながら、小浜島で一泊して次の朝、僕たちは石垣島に帰った。
やっぱり3月3日は女性の節句であるが、岡田さんの場合、お雛さまのお内裏様はヒレナガカンパチなのである。

 

 

活躍したタックル

ロッド: モンスターL、 モンスター5.6、B.G.JACK

ルアー: クレイジーロングジグ320g・220g

リール: PENN9500SS、 ダイワExi 6000

ライン: モーリスアヴァニ50Lb、10×105号