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サムネイル57回

ビキニ環礁釣紀 

40年間にわたって閉ざされていた有名な島

 

ビキニ環礁といえば、被爆国である日本に住む私たちにしてみれば、第五福竜丸の事件が思い浮かぶ。

度重なる核実験のため、島のかたちは変化し、海は死に、そして扉が閉められた。

その後40年間、ビキニは一般に開放されることはなかったが、近年ようやく足を踏み入れることができるようになった。鈴木文雄氏の今回のレポートは、おそらく日本で最も早いビキニの情報である。

 

 

 

 

プロローグ  ビキニまでの遠い道のり
3年程前に、旅行社をやっていた友人からビキニ島に釣りに行けるようになるらしいという情報が入った。今年に入って、今回同行してくれた友人の大島雅樹君からアメリカ人ガイド、ウィリアムを含めて、3名で、ビキニ島に行こうという計画が舞い込んだ。ワンダーブルーの東君が、情報を収集してくれた結果、今回の釣行となった。

1946年7月を皮切りに、1958年までの 12年間、23回にわたってアメリカの核実験が行われた環礁が、ビキニである。日本海軍の戦艦長門、アメリカの空母サラトガなど、多くの軍艦が実験の被爆対象物として使われ、内海に眠っている。1996 年に40年間閉鎖されていた島が、まず、スキューバダイバーに解放され、今年1998 年、ついに釣りが解禁になった。
ビキニという響きは、私にとってはまず第五福竜丸事件を思い出させる。50年近くも前に起きたこの事件は、核実験によって、日本のマグロ漁船と乗組員が被爆し、多くの犠牲者を出した。
また、それ以前にはその効果が、核爆発的であること、つまりそれだけショッキングであるという理由になぞらえた、女性の水着「ビキニ」が世界的な流行になった。
交通手段は、ハワイ経由で、あるいはグアム〜ポナペ経由でマーシャル諸島共和国の首都、マジュロに入る。翌朝、双発機でクワジェリン経由ビキニ島となる。この双発機はマジュロから週に1便なので最低でも8日間の日程になるし、地元の生活便なので、グアム、マジュロ、また、マジュロ、ビキニ共に飛行機のチケットをとることは、難しい。
気温は、年中30℃前後と一定であるけれど、北東ないし東の季節風が年間を通して吹いているらしい。5〜9月頃が風が一番収まるらしいけれど、風はいつも強いと思って、間違いなさそうだ。ビキニは東西に30q、南北に20qぐらいの楕円の環礁で、東側はほとんど環礁がなく、ナム、アメン、ビキニ、エニューといったサヤエンドウ形の島がリーフ内に点在している。反面西側は、多くのチャンネルがあって、外海は風裏にあたり、穏やかである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

核実験によって消滅した島
グアムを飛び立ったコンチネンタル956 便は、トラック、ポナペ、コスラエと寄ってクワジェリン、マジュロと8時間半のフライトになるはずだった。ところがコスラエを飛び立ったところでエンジン不調のためにコスエに戻った。結局そこで24時間待たされて代わりの飛行機でマジュロへと向かったのである。
さらにマジュロから週1便しかないプロペラ機で5時間のフライトの後、ようやく私たちはビキニに着いた。
タラップを降りた途端、白い光りが溢れている。背の低いヤシが東の風になびいていた。簡素な管理小屋があって、その向こうは青い内海が拡がっているが、海岸の近くで、核実験に使われた観察サイロが目に飛び込んできた。ボロボロになったコンクリート、赤錆た鉄筋や重機、横長の窓等が暗い口を海の方に向けている。飛行場のある島エニューから、船で内海を20分走ると、ビキニ島に着いた。
島の中央にある人口100名たらずの集落のはずれに、砂浜に面した4部屋の長屋スタイルのコテージがある。それに食堂、ダイビングサービスルームなどがあり、簡素であるが、釣りをするには十分である。ポートは、ブラボーという50ftクラスの古いダイビング船と、ハンマーヘッドと名付けられた35ftのアルミ製上陸用舟艇である。
釣りにはこのハンマーヘッドの方を使用することが多いが、日陰もない上に、金属独特の照り返しに悩まされることになる。その上、サイドパネルが高く、キャスティングやファイト時にちょっとしたテクニックを要する。
翌朝、8時にビキニを出航したが、強風のために外海には出られず、内海を攻めることとなった。インリーフ沿いに北西に上って行くとダラダラとした3〜4mの浅瀬が続く。アメンという島が見えてきたので、大島君、ウィリアム、と3人でポッバーを投げはじめたが、すぐにレッドスナッパーの大群に襲われた。
着水と同時に1ダースぐらいのレッドスナッバーがルアー目掛けて集まってくる。それをかわすように素早くリールを巻き取るのであるが、時として進行方向側からも魚が現れるわけで、2回に1回は、ヒットしてしまう。
島を40年間、閉鎖してしまうと、こんな風になってしまうんだなと、すこし感動した。
しばらく行くと突然、今まで2〜3mだった浅瀬が、黒々とした海に変わった。それは、外海に出たわけではなかった。
「原爆の跡だよ、深い所で100mぐらいあって、この辺は何10回も繰り返されたらしい。飛行機から見ると、綻構、丸い」とウィリアムが説明してくれた。そのなんとも不気味な巨大な穴は、周りの光や幸福感を吸い込んでしまうらしく、僕は、ぞっとした嫌悪感に襲われた。
ビキニアンで、地元ガイドのエドワードが遠くに見える小さな砂州を指さして、もともとはこっちの島とつながっていたという。こっちの島といってもこれまた反対側の1km程遠くに見える小島である。その間はやはり黒々とした淵をのぞかせている。
あまりにも大きいためにその断片にいても分かりようがないが、なんとなく曲線を描いてその淵は曲がっていることだけはわかった。
ぼくは、その間は、どこにいったのだとエドワードに再び尋ねた。
彼は両手をゆっくりと天に広げて、吸い込まれるような青空を見上げた。
「gone」と言って、僕の方を見た時は、悲しみは日焼けした笑顔とサングラスの向こうに消えていた。ビキニアンの彼が故郷の地を踏んだのが、2年前のことである。だから生まれた時はすでに強制移動の対象となっていたわけだ。ビキニには、先住民は一人も残っていなかったことになる。彼は、父親からビキニの話を聞かされながら、育ったらしい。

故郷は、いろいろな形である。この島がナムという名前らしい。

 

グッドサイズのGTがダブルヒット
僕は、ポッパーをその暗い淵めがけて投げると、うぶな魚の群れが無邪気に襲い掛かろうとする。戦争を平和が塗り込めて行くことができるなら、こんな所で釣りをすることも同じことではあるまいかと、ふと思った。
午後に入って、釣りをしていたら、「182 LbのGTが釣れたの、ここ」とエドワードが指をさす。

そしたら、ドカンとウィリアムのロッドと僕のロッドが同時に曲がって、ラインが飛び出ていく。ボートをアトミックホールの方に移動して、ファイトをすると、グッドサイズが2本浮いた。
2人で合わせてランディングして写真をパチリ。すぐにリリース。また投げていると巨大な黒い影がクレイジースイマーの横を通ったと思ったら、また青い海に戻ってしまった。

 

サメはスクリューのしぶきが好き
3日目に入って、西側の穏やかな外海のチャンネルでロングジグを落としてみると、一度ずっしりとしたアタリがきて、そのまま、ラインがグイグイと底の方に引き込まれていく。グルーパーの大きいのが、来たらしいことはすぐにわかったので、リールのドラグテンションをかなり一気に上げてみたけれど、一向にラインは止まろうとしない。
仕方なく、ボートで少しフォローしてもらったのが、かえって魚を深みに沈める結果になってしまった。

こうなると、もうお手上げで強引に引きずり出すかラインを緩めて魚が油断してくれるかである。僕はあまり賢明でない、前者をとることにした。魚は一度反転して、さらに穴の奥に入っていってしまった。

10分がたった時フワッとラインがふけて、ジグが戻ってきた。
「どうせシャークにやられますよ」と大島君がなぐさめてくれたけれど、僕は片目をつぶりながら海の深部をにらみつけていた。雨が降ってきた。グレーの屏風がジワジワと風に乗って近づいてくる。ウィリアムが自分のコートを僕に貸してくれた。雨は5分ほどドシャドシャと降ったけれど、その後はケロリとした青空に戻ってしまう。
「シャークが集まりだしましたよ」「何尾いるの」「100尾、それ以上」
サメにかぎらずビキニの魚は、スクリューのあわに興味があるらしい。
「ちょっと島ちゃんポッパー投げてみな」「え、僕がですか」と大島君はたじろいだ。
「他に誰がいるんだ、僕は一枚サメの写真を取りたいんだ」
大島君はポイとクレイジースイマーをサメの群れの向こうに投げる。

とルアーの飛んでいった方向に一斉にシャークの塊と空の鳥の塊が動く。
「船のそばまで寄せてからヒットさせてね」「え、そんなことできるんですか? 早く巻けばいいんですか」
「そう、早く巻いて近くで一瞬止めればOKさ」
ドカン、ビューとロッドは曲がり、リールは悲鳴を上げる。僕はその瞬間をパチリ。
「OK」「え、このあと、どうすればいいんですか」
「サメもネ、リッパなゲームフィッシュだよ」と冗談を言うと本気に取ったらしく、大島君は思い切りファイトの姿勢をとる。30kgぐらいあるサメも、本気になった大島君のパワーの前には4分ほどで浮いてしまった。

ウィリアムがショックリーグーのいちばん短い所で切ってリリースしてくれた。
「面白かったです。でも一回でこりごり」と言いながら、彼は新しいルアーをセットした。
「サメのいるところは、サメぱかり、レッドのいるところはレッドばかりで、この島、ちょっと変ですよね」と頭をかしげながら付け加えた。
もうあたり一面サメだらけ、鳥だらけになってきた。よく見ると、鳥は海の上を飛んでいるだけで水中の魚をつつこうとはしない。
「サメは鳥を食べにやってきてるんだよ」とウィリアムが笑った。

 

 

インリーフのジギングが新しくて面白い
外海のコーナーをあきらめて、20分ほど走って内海に戻って浅場のジギングをすることになった。水深は20〜30mで、ところどころに根が見える。ブルーの透き通った海は肉眼でこれくらいの水探だと海底地形を見せてくれるわけで、我々はそれを狙ってジグを落とした。
「え、もうヒットしたの?」と大島君がロッドのしなりを確かめながら、ファイトに入った。15kgサイズのスジアラである。今度は僕のロッドが曲がり、同時にウィリアムのも曲がった。
「入れ食いですね」大島君は釣りすぎの背中の痛みを堪えながら言う。
「だってねえ、ウブだよね、ここの魚。ロングジグって24cmもあって、大きい用なのに、自分と同じサイズのこのジグに食いつくかね」
「光り系のこのジグ、ワンプレゼント、ワンフィッシュです。もうボロボロですよ」
 ウィリアムがロッドを脇にかかえて、菱形を書くようなオーバーアクションで釣りはしめた。
「IT'S、アメリカンアクション?」と冷やかすと、
「ホワット!?」といぶかしい顔になった。
「IT's JAPANESE アクション」と言いながら新しいダイワのリール6000HiAを一回巻いて、一回小さく鋭くしゃくる。クイックtoクイックショートのメソッドを教えている最中に、ドカンときて、ラインが飛び出た。ウィリアムがすっとんできてランディング。バケツで水をかけると直ぐにリリース。グッドサイズのやはり、スジアラである。
「ジグで1日やっていたら、3人ですごい数釣れるでしょうね」と大島君が締めくくった。

 

単純な島の夕暮れあとはビールだ
我々のコテージの、ほんの10m向こうには、白い砂浜が拡がっている。そこは環礁の内側にもかかわらず、すこし波があって、いささか、打ち寄せてはひいている。僕らは焼けつくような、昼の白い海から、夕方、そのコテージに毎日トポトボと帰ってくると、ロッドをテラスにたてかけて、そこに置いてある、大きな、それぞれの椅子に座って、「ビクトリアビター」というウィリアム推薦のビールを一気に飲んで、ボーッとする。
ビキニの斜光はそんなに赤くならず、熱線のように光りと熱を顔に運びながら、沈んでゆく。夕暮れがこれほど単純な島はないと思われるくらい、あっけなく、終わる。夕食を2時間ぐらい楽しむと、やがて大島君が「眠くなった」と、毎日のように言いだすものだから、飲みかけのビール缶を持ちながら1人でフラフラとコテージに帰って、例のでかい椅子にどっかりと座ると、一気に飲みほす。
ザーという波の音が繰り返して聞こえるのだが、それが子守歌のようにやさしく、心をなでると、月光が目の前の海を青白く光らせている。天を見ると、すぐ側に、南十字星が輝いている。白い簡素な部屋に入って、ベッドの中にもぐり込んで、一日が終わる。
ビキニは釣り師にとっては、官能的な響きであることは間違いない。

 

活躍したタックル

ロッド:YELLOW TAIL 7.4ft
BG OCEANH +2
BIGGAME 86  GT-GAME-T

ルアー:LONG PEN110スリム
CRAZY SWIMMER 105
S-POP 100  CRAZY SWIMMER 320

リール:ダイワ 6000HiA(New)
シマノステラ10000H

ライン:モーリスアブァニ 50 / 60Lb

釣行の問い合わせ

ワンダーブルー東まで03-3353-0306