トップページへimg

サムネイル68回

バリ島周辺の島々@

ヌサペニダ、悪魔島の巨大魚「前編」

 

雨季の明けないバリ島へ

湿度100%、気温32℃の蒸し暑さがバリの空港の僕等を待っていた。

「乾季のはずなんですがねぇ?」と、旅行業の東完次郎君が沸き立つような赤い入道雲を、いぶかしげに見て言う。巨大な積乱雲が、つい今しがたまで空港を覆っていたらしく、いつもなら排気ガスの匂いが鼻につくのだが、妙に空気が透き通っている。

木々の緑は多量の雨に洗われたのだろう。夕方のオレンジ色の斜光の中でも、はっきりと緑色が映えている。

「下北では、まだ雪が降っていましたよ。冗談ですけど。」と、青森の小向さんが笑う。

4月に入ると、波も風も天気も一番いいはずですけれど、おかしいです。それにしても、素晴らしい夕焼けですね。」と、東君が念を押した。

空港を出て、相変わらずの人ごみをかき分け、迎えのバスに乗る。釣り宿は男同士で来ているのだから、どこでも良いのだが、バリは伝染病や町での危険が多いので、東君が良いホテルをとってくれた。

ホテルグランドミラージュは、バリ島南東端、バドゥン半島に突き出たブノア地区にある。空港から30分くらいで着くのだけれど、夕方のラッシュに巻き込まれてしまったらしい。

東南アジアは、どこの国もそうだが、バイクが非常に多い。多いという表現より、道に溢れていると言った方が正しいかもしれない。

その上、スピードをかなり出す。車も負けてはいない。以前、ミンダナオ島で車の助手席に乗って、かなり怖い思いをしてからは、ぼくは後ろの座席で小さくなっていることにしているが、怖い。

よくまあ事故が起きないものだと思い、今回のガイドのワレ君に聞いてみた。

「小さい事故は、しょっちゅうそこら中で起きるけれど、あまり死んだりはしませんね。」ときた。

よく考えると、この雑踏の中で生き抜いてきたバリのライダーは、下手な日本人のアンチャンよりも、もしかしたら運転が上手いのかもしれない。

2人乗り3人乗りは当たり前。中には、一家が一台のバイクに鈴なりになっていたりするのを見るけれど、それはそれで、紙一重の秩序があるのだろうと思った。

最干潮のペニダ湾は広々とした干潟になる。水が残った水路に向かって地元の人が並んで釣りをしている。

 

バリ・ヒンドゥとは

バリはPARIが訛ったもので、パリは生贄という意味がある。インドネシア自体はイスラム圏であるけれど、このバリ島だけはヒンドゥである。

ヒンドゥは紀元前、インドのバラモンから発し、本来は自然界の深遠を、自己の中に突き詰めてゆくのであるが、バリ・ヒンドゥに至ると、自然への無知と恐れ、輪廻転生への連鎖、祖先と自然の同化などの土着信仰と結びつき、アニミズム的なものへと変貌した。

つまり、自然の神秘を精霊や悪霊とみて、人間界と横並びに存在させて、生活の中で受け入れてゆく。

だから、哲学的な自然の追求を基本とした本来のヒンドゥ教とは違う。

バリの本当の意味は、神々に色々な捧げものをすることによって、日々の安堵を願う。それは、時として動物にもなるし、花にもなる。

つまり、バリは元々、神々と交信するためのイケニエの島なのである。

 

写真左:激流の中でGTをコントロールする。    写真右:ペニダ港に着いたチモールからの客船

 

以前はチャーターしたボート

ブノアのホテルから、ブノアのヨットハーバーまでは、直線距離では1kmに満たないけれど、車ではぐるりとブノア湾をほぼ一周しなければならない。40分間のドライブをして、長い橋というより埋め立て1本道と言った方が正しい橋を渡って、ハーバーのあるブノア島に着く。

そこは、これから行くペニダ島やロンボク、チモール島への大型の定期船が出入りしている。湾の水深がかなり浅いせいか、中央部まで橋を延ばして、人工島の港を作ったに違いない。

ボートは以前、「バリ島釣紀」(南海島小紀行No21)でGTのキャッチ&リリースとバーブレスフックの先駆者でもある奥山君とチャーターしたボートと同じである。

30ftのブラックウォッチというアメリカ東海岸、モントークで作られているこのボートは、ぼくが石垣島に移り住んだ当初、自分のボートにと思って輸入しようとしたが、当時、輸入ボートの規制が厳しく、諦めたことを思い出す。結局、フロリダのルアーズ社から一艇輸入してFISHERMANUになった。

FISHERMANUのことは、あまり書いたことがないけれど、FISHERMANUで寝泊りしながら、1週間くらいの航海を随分とこなした。波照間島、仲ノ神島、西表島と縦横に走って、JGFA日本記録、IGFA世界記録を合わせて30近く作り出した。その船も新艇FISHERMANXに今年の5月に変わった。

 

小向さんが大型魚のパワーに耐える。

 

ヌサペダ・悪魔島へ

ブノア港から真っ直ぐに、ペニダ島へ向かう。ペニダ島はバドゥン海峡を挟んで、聖峰アグン山に対峙している。悪魔の住む島として、古来からバリの人々に恐れられている火山島である。

ガイドのワレはペニダ島に隣接するレンボカン島の出身で、海産物を持って子供の頃ペニダ島西岸の朝市のたつトヤバケ村に行ってペニダ島の内陸に住む民と、山の物と交換した話を聞かせてくれた。

この島は、ぐるりと断崖に囲まれていて、このトヤバケ村を除けば上陸出来ないのである。

そして、この村から4km離れた所に伝説の悪魔ジェロ、グチ、ムチャリンを祀った寺がある。魔物にお供え物をして祈ることによって邪気を抑え、他の悪霊から自分達を守ってもらう。つまり、災い転じて福となす。

あるいは、毒は毒をもって制すという考えなのだろうか。それよりも、もっと原始的に悪霊の怒りを鎮めることにより、精霊の力が強くなるという考えに違いない。

実際“チャナン”という、花籠の捧げ物は、精霊には祭壇へ、魔物には直接土の上に置いて、花の杓で聖水を降りかける。

 

写真右:名古屋の大嶋君もキャッチ。全員30kgオーバーをキャッチした。

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大GTの連発

ボートで1時間ほど走ると、ペニダ島南岸に着いた。いくつかの岩が海に連なっている所がある。

岩はさほど侵食されておらず、固い火山性の玄武岩が比較的新しい地殻変動で隆起したものと推察出来る。

紺碧の海が断崖の付け根まで続いていて、突然白い飛沫と変わる。逆光の黒々とした壁にルアーを投げると、弾道に沿ってPEラインが白く輝くけれど、暗部に入った途端、影と化し消えてしまう。

ルアーが着水ぎりぎりであればあるほど、痕跡はわからない。動き出したルアーのシルエットは、暗部においてはやはり冷たい。

5投目ぐらいに、2尾のGTが左右から現れてルアーに襲い掛かった。左から襲ったGTが、一瞬早くルアーを空中に蹴飛ばした。右からのやつは、そのまま背鰭を出しながらボートの方に5~6m泳いでから、減速して群青の中に消えた。

モンスターCCという超ショートロッドが、綺麗なベントを描くと、アドレナリンサウンドがリールから鳴り響く。

ぼくは、しつこいぐらい強いフッキングを連続して行ってから、ロッドを立てた。

ゆっくりと魚の状態を見極めて、浮かせにかかるとGTは反転して再び潜ろうとしたけれど、リールのスプールを外側から押さえて、プレッシャーをかけると、すぐに止まった。

3分後、7ノットの潮の激流の中では、ボート近くに浮いた。

リリースギャフを打って、ランディングし、海水ポンプを口の中に入れる。海水がエラを洗い、GTが落ち着きを取り戻したところで、写真を撮ってリリース。30kgオーバーのGTである。

再び、ロングペンをキャストすると、すぐにGTが同じところで釣れた。

少し、休んでから再びキャストを開始する。

前で投げていた大嶋君の真っ黒いロングペンに何尾かのGTが絡みつくようにバイトするのが見えた。

その後もGTのアタックは続き、小向さんが40kg近いGTを釣り上げたところで、その日は切り上げた。

「こんなに大きい魚、初めて!!バリの夜はこれからだ。」と、小向さんはいつものように冗談を言う。

「巨大GTが揃って釣れるなんて、珍しいですよね。」と、大嶋君も上機嫌。

30kgぐらいのやつを2尾連続して釣ったのは初めてだよ!」と、ぼく。

「バリGTツアー、本気で作りますよ。

見ていて何か凄いところを発見したような気がします。」と、東君は新しいツアーの青写真が出来たみたいである。

 

続けざまに30kgオーバーがヒット。ぼくもこんな経験は初めてである。

 

サーフィンのレストラン

夜。波乗りで有名なサヌールのレストランにワレが案内してくれた。

ワレは、元々バリで有名なサーファーであるらしく、釣りのガイドは今回が初めてで、いつもは日本のサーファーを案内しているという。

裏通りに抜けて、海に隣接しているレストランに着いた。アウトドアのテーブルにはサーファーのアンチャンやネーチャンがたむろしている。

野郎だけで食卓を囲んでいるのは、結局ぼく等だけで、GTフィッシングはどうも色気が無く感じられた。

大嶋君と東君はビールが大好きで、したたか飲んでいると、釣りの野郎同士の会話は盛り上がるわけで、周りのYOUNG BOYGIRLSからは恋の邪魔とばかりに、冷たい視線を感じたのは、あまりお酒に強くないぼくだけであった。

 

タックル

ロッド MONSTER CC61  YELLOW TAIL BG7  GT GAME T

ルアー ロングペン100 クレイジースイマー105 S-POP BIG HEAD

ライン モーリス アヴァニ60lb  1010 5

旅の問い合わせ

ワンダーブルー 03-5791-5686

タックル問い合わせ

SEAMAN 0792-45-3412