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サムネイル69回

バリ島周辺の島々A

悪魔島の巨大魚 後編

 

ヌサペニダへ
次の日、プノアの港から早朝に出港した。ペニダ島まで1時間あまり、そしてゲンブ岩の断崖を南に回り込むのに30分近くかかる。

その間、ボートの中はというと、前夜の疲れで、東君も小向さんも寝入っている。僕はフロントデッキで、前方に近づいてくる島をボーッと見ているわけで、頭の中で決して考えごとをしているのではない。暑いということはそれだけで、元々北の人間である僕から思考能力を奪ってしまうらしい。
考えてみれば、石垣島に住んでずいぶん長くなるわけで、既に南の人間へと脳ミソの大半を変化させているのかもしれない。光に溢れる南の風をこうして見ながら、心地よい海風に吹かれて、まだ見ぬ大魚に思いを馳せる朝の一時は、釣り人冥利に尽きるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インド洋のキハダ現わる
ボートが南の岬に回り込むと、うねりも消えて潮と風が同調している海域に出た。すると目の前にキハダがジャンプした。何尾か不規則に、ドボン、ドボンと跳ねる。ちょっと遠くでバシャン、ドボンとまとまったボイルが見られた。ゆっくりとボートを近づけてエンジンを切らせる。大嶋君と小向さんがロングペンのファーストリトリーブを始めた。 キハダをトップで狙うのは、モルジブやクリスマス島で試みている。あくまで僕の見解であるが、マグロ系の大きいヤツはスローなトップに出る。つまりゆっくりとペンシルを引くわけで、ミノーのように動かすのも良いし、デッドスローでショートパンピングをするのも良い。

僕はタックルボックスからビッグペン110という、元々マグロ系のために設計したスローリトリーブ用の特大ペンシルを出した。
2人がバシャバシャとペンシルを動かしている10m横に投げて、デッドスロー、ショートパンプを試みる。3投目ぐらいに、紺碧の海の底から黒い影がスーッと上がってくるのが見えた。そいつは少しウロウロしながら、僕のペンシルの方に近づいた。僕はさらに小さく動かして、ほとんどリールを巻かない。
バシャ!! ルアーはまた海の上に浮いてくる。魚が空ぶったのか、運悪くルアーに魚が食いついた所に、フックがなかったのだろう。

さらに、シェークしてから一度、ルアーをピックアップして、再びキャスト。今度は不規則にショートジャークするけれど、動きはデッドスローである。また影がスーッとルアーに近づいてきた。かなり大きい。30〜40s以上はあるに違いない。僕は狙いすましているけれど、少しドキドキと自分の心臓が動くのを感じながら、目のそばにロッドを近づけて、ルアーと一直線にする。
まわりから音が消える。瞬きが完全に止まる。手の動きがロッドに伝わり、伸びないPEラインからルアーを、自分の意のままに正確に動かしている。魚は左後ろからルアーに近づいた。なにくわぬ顔で近づき、射程距離に入った途端、一瞬、全力を出す。そしてまた、なにくわぬ顔で泳ぎ去るのだけれど、釣り人の操るルアーだった時は、そうはいかない。
1m…、70p…、50p、ドカン!!
僕は思いきりアワせると、海面で大魚は派手な水飛沫をあげてもがいた。本当ならそこで釣り人はしてやったりと、さらにアドレナリンを体の中にまわらせて、ファイトに入るわけであるが、これはあくまで理想である。今回の場合、この強烈な僕のアワセはリールとラインにかなりの負担を強いることになったわけで、ちょうどリールのラインローラーのところから、プツン!? 切れたPEラインが海面から音もなく魚にひきずられて海中に消えてゆくのを、一瞬にして虚ろな目に戻ってしまった釣り人は見るわけである。釣り人は常に勝利の方程式の上に成り立って考えるが、実際にはこのように苦い敗北感を味わう。
「アレ、鈴木さん、はずれたんですか?」と大嶋君。ツナタワーの上にいた東君が「惜しかったですね……」と慰めの言葉をかけてくれたけれど、作り笑いをして手を上げるのがやっとであった。逃がした魚はでかいのである。その後もう一度、マグロは現れたが、今度はフッキングしなかった。
キハダマグロにしろ、クロマグロにしろ、日本人はこのマグロという言葉にかなり弱い。海外に行くとツナとなるわけだが、カツオもツナに入ってしまって、ツナがいると言われて、ついついキハダと思い込んで行ってみると、このカツオだったりで、がっかりしたこともある。
しかしペニダ島のキハダはでかかった。 くやしい…!!

 

潮のムシ
気を取り戻して更にボートを進めた。昨日GTが爆釣したポイントに入ってみると、潮があまり動いていない。それでもみんなでルアーをキャスティングしたけれど、無い袖は振れないのと同様、いない魚は釣れない。魚は潮のムシ(フライ)と八重山の老漁師が話していたことを思い出した。「ムシが風にまっているだろう。あれと魚は同じ。

風が動かないとムシも動かない。鳥が風にのってやって来て、風に乗って去っていく。

シビ(マグロ)もカジキも同じ、ガーラだってカツオだってサワラだってみんな潮の中で生きている。だから良い海人は潮と風が見える。潮と風が見えさえすれば、魚の動きもわかるわけさァ……」
沖の方に、潮の流れが少し波の形を変えているところが見えた。たぶん海底に根があって、微妙に下の流れが、海面近くまで沸き上がっているのだろう。僕は船長に言って、その流れの盛り上がりの400m以上潮上にボートをまわした。水深120mぐらいらしいことは、ツナデッキの上からかなり不正確な液晶、低出力の魚探を見ていた、東君が教えてくれた。僕は根の上、100mぐらいと予想をたてて、ロングジグ320のメッキカラーを選んだ。150mを超えると迷わず蓄光を選ぶのだけれど、水深が浅い場合、メッキかパール系ボディを選ぶ。

 

悪魔島の巨大イソマグロ
1投目、ガツガツとジグにあたりが来たので誘い込んで、鋭く合わせた。魚は頭を振って、しばらく動かない。今のうちに巻きとれるだけラインを巻きに入る。20sに満たなければ、押さえ込んでしまう自信はある。ところが、イソマグロはリールが鳴りだすと、さらにターボがかかったみたいにラインが飛び出して行く。

巨大なイソマグロである。スプールを下から押さえている手が、グローブをはめていても火傷をしそうになった。が、ジグが口から外れてしまった。

同時にヒットした大嶋君の方はまあまあのイソマグロを釣り上げた。
再び、同じ所を流した。僕は横に水をはったバケツを用意させた。ジグを落として動かし始めると、またカツカツと来た。今度はしつこいくらいにアワセを入れてから、強引にリフティングに入る。

さらに押さえ込んで、またアワセをすると、大魚は例のターボスピードで走りはじめた。僕はグローブをしている手をバケツに突っ込んで、ビショビショにして、スプールを押さえる。それでもジワッと熱を帯びてきたので、バケツの海水で再び冷やして、押さえ込む。
50mも走った所で魚は止まった。止まってしまえば、こっちのものである。さらにカウンターパンチのようなフッキングをしてから、リフティングに入った。6分後に魚は浮いた。30sオーバーのみごとなイソマグロである。その後3本立て続けに同じサイズを釣ったけれど、一番初めの強烈なアタリのイソマグロは現れなかった。

 

 

逃げた魚は大きい
今回は「逃げた魚はでかい」というお話に尽きるのだが、僕は絶対に今年中にこのポイントに来る。

100sオーバーのイソマグロは、ここに絶対にいると確信した。自分が見つけたポイントは自分で山たてをして覚えている。忘れないうちに来よう。
南極海からオーストラリア大陸西岸に沿って北上する寒流、西オーストラリア海流は、インド洋東域で、暖流の南赤道海流と激しくぶつかりながら、バリ島の近くまで流れ込んでいる。これはインド洋中央部に発生する高気圧から吹き出す南東貿易風に助けられるからで、その時、同時に生まれる大きなうねりが、バリ島をサーフィンで有名にしたのである。帰りのボートは、またあの眠りが支配するわけであるが、僕は来た時と同じようにフロントに寝そべっていた。空に湧き立つ積乱雲の中を、渡り鳥の群れが飛んで行った。

 

活躍したタックル

ロッド: YELLOW TAIL BG 70、MONSTER CC 6.1

ルアー: BIG PEN 110、LONG JIG220〜320

リール: ステラ16000H

ライン: モーリス10×10・5号

旅の問い合わせ: ワンダーブルー(担当:東) 03-5791-5686
タックルの問い合わせ:シーマン 0792-45-3412