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サムネイル84回

モルジブ釣紀行

秘境ノースアトールを行く

 

海の花
明青色のジュウタンの上に、水色の花が咲いている。それは、水平線まで広がっている。

時折、花にはエメラルドグリーンのふちどりや、白い膨らみがある。青は純粋に近い完全な群青で、白は自然が作り出す白のうち、雪の次に白いのではないかと思われるサンゴ砂である。
南海の温かさと豊かさ、そして、はかなさが同居しつつ、やがて花は、何百万年という地球時間の流れの中で、静かに海の青に同化し消えて行く。
モルジブの語源がサンスクリット語で花輪であることはあまりにも有名である。

 

GTおやじ族とデコレーションケーキ
水上飛行機は、低い高度で飛んでいる。いつもならモルジブ国内、特にリゾートへの移動時は日本人の2〜3名は必ず乗っているけれど、この機の乗客がヨーロッパ系白人ばかりであることは珍しい。

成田からモルジブヘ、スリランカ航空の窓際2座席は、日本人新婚カップルに埋め尽くされている。
飛行機会社も心得たもので、特製デコレーションケーキを配るが、長時間の飛行とリゾートまでの移動時間を考えれば、食べられるかどうかは定かではない。

機会があれば、ぼくもこのケーキを食べてみたいが、我々GTおやじ族には難しい。

 

 

 

 

クレドーリゾート
北マーレアトールから、前に釣行したガーファルーを過ぎると、しばらく外洋を60kmほど飛んで、やっとラビアニの南端に達する。さらに40km北上して、やっと目指すリゾートに着いた。首都マーレから直線で160km移動したことになる。
ラビアニアトールには、2つのリゾートがあって、我々の泊まるクレドーは、このアトールの北端に位置している。モルジブの新しいGTポイントの開発に力を入れている旅行社ワンダーブルーの東完治郎君に言わせれば、この白人系リゾートが日本人に開放されたのはここ1年ぐらいの間で、ほとんど知られていないということらしい。現に、我々のまわりは、ヨーロピアンのバケーションカップルばかりである。
彼らの滞在日数は2〜3週間と長く、一日中のんぴり過ごす。日本人から見ると、グテグテと何もしないで何日も過ごすのはかえって苦痛に思えるのだが、「何もしないということが、彼らには価値があるのです。だから一日中プールサイドで寝ていたり本を何冊も持ってきて、のんびり過ごす。ヨーロッパ人にとって、目的を持たないバケーションが一番の贅沢なんでしょう」と、東君が説明してくれた。

 

スピナードルフィン
朝の8時にクレドーを出発し、北上する。すぐに、ラピアニとノーヌアトールとの間にある海峡に入った。無風でベタナギの海は、油を流したような緩い曲面を組み合わせたように穏やかである。いわゆるモンローウェーブが続いている。
ボートは、200hpのディーゼルエンジンを2機積んでいて、30ftたらずにしてはスピードが出た。このボートが作られてから20年は経っているらしく、デッキの床は、ふわふわとスプリングの抜けたベッドのように柔らかい。船長は少し英語が山来るのだが、もう1人のクルーはまるでだめらしい。
東君はいろいろと船長と話している。

僕らが船首から足を投げ出しながら座っていると、遠くでイルカがジャンプしている。大きい奴が初めにジャンプして、次に50cmに満たない小さいのが同じように飛ぶと、そのうち大きい奴が真っ直ぐ空に向かって飛んでくるくると回る。すぐに小さいのが飛ぶ。
「イルカもクルクルと回るのですね」と隣にいたカツオ君が、感心して言う。
「スピナードルフィンといって、和名はハシナガイルカだったかな。南の海では結構多いイルカでね。ちょうど出産が終わって子供の教育でもしてるのかね」
ハシナガイルカのほかにジャンプしてきりもみ何転する種は大西洋に住むクライメンイルカだけである。

生まれたばかりのイルカは母親によって水面に押し上げられて呼吸方法を教わる。イルカはもともと人間に近い哺乳類であるから空気呼吸をしなければ生きていけない。

子供教育が大変なのは、どうも人間ばかりではないらしい。

 

 

 

 

秘境ノーヌアトールヘ
小さな島々が見えてきて、チャネルがみえる。
「船長がアトールの東の方に行こうと言っていますが、どうしましょう?」と東君。
「地図によると、ノーヌは東側がロングリーフだから僕なら西に行くね」と答えると、東君はそのまま船長に告げた。
「船長は西に向かうことに同意しましたので、西に行きましょう」と東君。
「今日は小潮だから、まったく潮が動いていないね」
「風も無し、潮も引かない時はどうしたらいいですかね」
「まあ、魚はルアー投げないと釣れないからね」
 エッジに近づいて5名で投げ出すと、案の定バラフエダイが現れた。
「でかいアマカスですね、ここのは」 同行の木原さんが驚く。
10kg近くはありそうな赤い魚は、ポートに揚がると僕を睨みつけるような目をした。
「よく引くよね。とってもおもしろいですね」と三重から来た笠間さん。
 みんなに次々に釣れだす。一時間もしないうちに、アマカスやバラクーダやカスミ、小GTなどがたくさん釣れだしたが、大きい奴はやはり潮が動かないとエッジ際まで近づいてこない。
11時ごろ早い昼を食べて、エッジを泳いでみた。ドロップオフに切り立った屏風状の壁が続いている。シャローはサンゴがほとんど白化して死んでいる。

エルニーニョ現象で起きた海水温上昇が、珊瑚礁に壊滅的な打撃を与えているのを目にしたけれど、仲間には言わなかった。

 

 

ビッグテールとカツオ君
午後1時、潮が動き出したので、新しいチャネルに向かう。
「風がないと暑くてしんどいですね」カツオ君は、そう言いながら鏡のような海に初めの1投を投げた。
黒っぼいGTが動き始めると、海に動く盛り上がりが見えた。それは、みるみるルアーに近づいて行って、バシャー! 40 〜50pはありそうな大きいテールが穏やかな海に突き出た。彼は、ルアーを失速させて軽いショートパンピングをする。
もう一度 バシャー! テールが再び現れたけれど、その後反応はない。
「えー!行っちゃったんですか?」
「ゆっくり動かしすぎるんだよ。殺気のわりにはね」と僕は笑った。
「魚がルアーにからんだ時に、アワセればいいんですか?」
「ルアーが魚にからんだ時に、アワセるんだ」カツオ君はしばらく考えてから気がついたように
「それって、すごく難しいこと言ってません?」
「目で見て、誘って、バイトさせて、からませて、フッキングさせる。口で言うとそうなるけど、魚とルアーをよく見ることが重要だね」

 

シャビアニアトールヘ
午後3時を過ぎると、小潮といえども、潮がかなり動きだした。
ノーヌアトールの西側を40km北上して、シャビアニという新しい海域に入っているらしい。

しばらく移動すると、細かい流れ出しが連なっていて、その両端には魚深のドロップオフがあった。みんなで一斉にルアーを投げると、5人全部に何らかの反応が出て、次々にヒットし始める。

ダブルヒット、トリプルヒットと続くと、やっぱり「ここは」というポイントは違う。サイズは、20〜25kgと手頃なサイズがしばらく続く。また新しいチャネルが現れ、リーフエッジに沈み石が見えた。

 

大魚現る
一番前で投げていたぼくは、ライトブルーの浅瀬にルアーをキャストしてから、石の真上でショートパンピングした。魚は紺碧の深みから、かなり勢いよく現れたかと思うと、黒のクレイジースイマーに飛びかかるが、乗らない。3回ぐらいしつこくバイトを繰り返しさせて、フッキング。

やっぱりルアーのワンフックは難しい。ブルーのアヴァニ80Lbラインが狂ったように、スプールから飛び出て行く。僕はモンスターCC6.1ftのショートロッドを寝かせて、ドラグノブを締めドラグ10kg以上にし、さらに手でスプールを押さえつけテンションを上げるけれど、ラインは全然止まらない。
「すごい出方ですね」と横にいたカツオ君が言う。
ラインは、ライトブルーの浅瀬のかなり中の方まで入ってしまった。
「大きいんですか!?」と後ろで投げていた東君が前に飛んできて言う。
「こんなに80LbPEが狂ったように出されるのは初めて! 止まってくれ!」
それでも150mラインが出たところで、魚はピタリと止まった。つまり、止めたのではなく、大魚が止まってくれたという感じである。魚との距離220m、もう一度、大魚に浅瀬の奥の方に走られれば一巻の終わりである。プレッシャーをうまくかけて、ボートの進行方向に泳がせながら、徐々にリーフエッジの方に斜めに進路を変えさせる。幸運なことに、大きな障害物は見えない。

ラインが鏡のような海面を切り裂きながら、GTを10分かけてドロップオフに誘導した。さらに刺激しないようにして、潜らせないで沖に出す。フッキングをやり直したところで、再びラインを50m近く出されたが、さいわい水深は100mぐらいありそうだ。ポートをチャネルの中央に移動してから、勝負に入るが、なかなか魚が近くに寄ってこない。
「超でかいね」とカツオ君が小声で言う。
「さっき浅瀬でちょっと見たときは、今までで一番でかい」
とにかく、100m以上離れていて水の中にもかかわらず、姿形がはっきり解るのだから、ただ者ではない。今まで1500〜1600 尾GTを釣り上げてきたぼくのGT釣歴の中で、たぶん一番人きい。
20分が経ったところで、船長に言ってフォローしてもらう。背に腹は代えられない。ラインがウソのように巻き取れる。魚は深部に行こうとしないで、水深20mぐらいのところをゆっくりと泳いでいる。さらに、リフティングに入る。10分後、魚との距離は15mぐらいになった。深青色の中に、ギラリと腹部が光り、真っ黒い背鰭と尾鰭がウルトラマリンの中で、ゆっくりと動いている。さらに、ゆっくりとリフティングをすると、ピミニツイストの結びが水面上に出た。巨大なGTはぼくの手が届きそうなところを、悠然と泳いでいる。ぼくは頭で「勝負はついたかな」と思った。つぎの瞬間、大魚はすばやく一度ポートに近づきラインが伸びている方向に頭を振って反転した。

 

大魚と夢
 一瞬の虚を突かれ「しまった!」と心の中で叫んだけれど、時はすでに遅い。無情にもバーブレスフッタが魚からするりと抜けて、ロッドのテンションがなくなってしまった。そして海の上にクレイジースイマーがポカリと浮いた。
「はずれたの?」と東君。
「あと一歩でしたねえ」とカツオ君。
「今日は、僕はもういいや」と僕。
「どのくらいありましたかね」とカツオ君。
「逃げた魚は、やっぱりでかいね」と、僕は笑ってごまかした。
「フックが1本だったから」とか、「2本だったら」とか悔やんでみても仕方がない。大魚はその姿を一瞬ぼくに見せて、また海に消えて行った。
僕は、しばらく虚脱感に襲われて海を見つめた。その日は釣りをやらずにリゾートに戻って、ビールをあおって寝てしまった。夢の中に、再び大魚が現れ、こんどは釣り上げた。
釣り師は、大魚を釣って喜びを得、大魚を逃して夢を見る。

 

タックル

ロッド MONSTER CC   GIANT86

ルアー CRAZY SWIMMER105  S-POP120

ライン  モーリス アヴァニ80Lb 60Lb

ショックリーダー バリバス170Lb

 

旅の問い合わせ

ワンダーブルー 03-5433-7221