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サムネイル79回

マレーシア半島の秘リゾート、シブ島釣紀

 

パームヤシの林

ヤシの林が続いている。

真っすぐに伸びた道は丘を越えて、また沈み込んで波のようにうねっているけれど、車の窓から見る限り、連なり連なり、真っ直ぐなのである。左右に広がるヤシの木は、パームヤシというヤシの実せっけんや、今、流行の自然にやさしいとされている植物性オイルをとる原料である。黒々とした緑の葉は、針のように尖ってまわりに散っている。それが、当間隔で連なり連なり山向こうまで続いている。つまり、きれいに並べられている。

「林というより、兵隊さんの隊列みたいですね。どんどん熱帯雨林をつぶして行進して行くようです。」と東君が、いぶかしげに言う。

「マレーシアはパームヤシのプランテーション(大規模農園)が盛んなのです。世界的に植物性洗剤やオイルが注目される以前からヨーロッパに需要があった。」

「ヤシの実石鹸は自然にやさしいというキャッチフレーズで日本でもお馴染みですよね。」

と、カツオ君。

「パームヤシは大型プランテーション農業でないと作れないのは、オイルを取り出すのに加熱しながら、圧力をかける工場施設がないと抽出できない。」

「もともとは、ここは、熱帯林雨林の森だったんですよね。」とカツオ君。

「ブルドーザーで倒して火をつけてね、焼畑みたいにして農地を作ってパームヤシの苗木を植えてゆく。」

「森を切ってヤシを植えて、自然にやさしいですかね・・・。」とカツオ君。

「だから、見方だと思うよ。琵琶湖のように化学洗剤でプランクトンが異常発生したりすると、そういうものが発生しない洗剤はないかと探す。そこに、ヤシの実洗剤となる。琵琶湖はきれいになるけれど、その分どこかの森がパームヤシの林に変わることになる。先進国の環境が改善されたぶん何処かの国の環境が破壊されるのではいけないと思うのだけれど、経済が絡むからややっこしくなるね。」

水上の家、台風が無いところは良いな

 

ターポンの跳ねる港

前夜、シンガポールについて直ぐにマレーシアに入った。国境の町ジョホールで1宿し、朝8時、車で出発して長い一本道を3時間ゆられている。車は昼を過ぎた頃、所々残っている森の脇道に入って海に出た。

新しい港が現れて広い駐車場がそこにあった。

結構良い車が多く止まっていて、港の待合室もカメラや撮影機材を持った人や偉そうな人がうろうろしている。定期船が着いて、その怪しい人たちもいっしょに乗り込んで船は出航した。

穏やかな海が続いている。ゴーというエンジンの音が風に混じって耳をかすめる。東君、カツオ君、それにビューホテルチェーンの中里支配人は、すっかり寝込んでいる。相当、疲れたのかもしれない。40分ぐらい走ると、島の港に入った。

定期船が減速するとスクリューで出来る、沸き立つ海水の向こうでアンテナのように尖った背びれがターンする。続け様に、そこら中ローリングを続けた。目を凝らして見ると、50cmぐらいの目の大きな尾鰭がV字型に切れこんだ白銀色の魚が、海底から巻き上げられるエサに反応している。

「ターポンですよね。釣れそうですよ、ここ。」とカツオ君の目が光る。

「小さなミノーをポンでバシャでしょう。後で来ましょうか。」とぼく。

「すみません、港の中は釣り禁止なんですよ。」と中里さんがすまなそうに水を注す。

この港は綺麗な水と50〜60cmのターポンが200〜300匹うろうろしているのだから、釣人にとっては天国だ。が、釣り禁止と聞くと、みんながっかりしてしまった。

 

 

釣りと記者会見

歓迎のバンド演奏付きで赤いジュウタンが引かれ、ぼくたちはロビーに入った。

リゾートのマネージャーと話し合っていた中里さんが「記者会見が用意されたみたいですよ。」と言う。

なんと、ボートを一緒に乗りこんだ人々は、ぼくらのためにやって来たマレーシアの報道陣だったのである。その数ざっと20名。

釣りに来て記者会見をさせられたのは、初めてであり、まして机の前にマイクと花を置かれ、その前にずらりとプレスがいる。ぼくが、真ん中で東君、中里さん、カツオ君と4人並べさせられて質問を受けるわけである。

よく、ワイドショーに出て来ておしゃべりしているあれである。

ここのリゾート会長は、マレーシアの貴族であるらしい。そこに日本指折りの釣り師がやってきて、会長と共に釣りをするという内容らしい。

指折りの釣り師は、この場合、ぼくらしいことはすぐに解った。

「すみません。」と東君と中里さんが、ペコリと頭を下げた。

こうなったら腹をくくる以外ない。ぼくは、“日本を代表する釣り師でない”と言っても仕方ないし、こういう場をセットしてくれた人にも迷惑がかかる。

「マレーシアのリゾートについてどう思われますか?」「マレーシアの海の魅力とはなんでしょうか?」

「サカナは、なぜ逃がすのですか?」と次々に質問が来た。

「美しい海は豊かな森によって作られます。マレーシアは、工業化も急ぐことで豊かなマレーシアの熱帯雨林をかなり犠牲にしてしまいました。リゾート開発の副産物は、自然を再生しながら調和をとることだと思います。アメリカやオーストラリアがやっているように厳しい汚水排出基準を作ったり、森やサンゴ礁を保護しながら、観光事業を進めて行くべきでしょう。」

「マレーシアの海の魅力は、これから何日間かかけ、ゆっくり見てみます。魚を逃がすのは、もう一度、その魚かその魚の子供たちを釣りたいからで、魚保護という観点からではありません。なぜなら、もし魚を保護したいなら魚釣りなどは、行わないわけです。つまり釣った魚を食べなくても、このすばらしいリゾートで食事はとれるわけです。釣る人と漁師のように魚を取る人は別なのです。」

記者の顔はみるみる不可思議な顔へと変わってゆくのがわかった。

「ということは、逃がすために釣ると理解してもよいのでしょうか?」

「釣って逃がす、釣りを楽しんで魚も生きてもらうということです。」

「すごく無駄のように思えますが?」

「人間は、無駄の中に生きています。例えば、山に登ったり、ドライブに行ったり、旅行をしたりと自然界から見れば無駄なことです。釣りも同じです。釣りを、魚を取るだけの手段と考えてしまうと狭くなってしまうのではないでしょうか。」とまぁ、1時間にわたっていろいろ質問されたのであるが、その内リゾートの会長のダトー伯爵がヘリコプターで着いたことでこの会見は、それで終わった。

用意されているボートに乗り込んでダトー会長と2人でルアーを投げているのを写真におさめたところで、その日はリゾートに帰った。

 

カツオ君はポッパーを投げまくる

 

アウル島へ

次の日、20マイル離れた沖の島アウル島に高速艇で向かう。待ち合わせの海域につくと、ダトー会長は前夜、そのままボートを走らせて明け方から得意の餌釣りを終えていた。ダトーは、クーラーボックスの中からの4〜50cmフエダイを取出して手で持ち上げた。

「なかなかの収穫ですね。」とぼくが言うと、ニコリと笑って次から次へと魚を見せてくれた。

「では、頑張ってください。ぼくは、これから公用でクァラランプールに戻ります。」と、

会長は言ってぼくらと握手をして去った。なんて忙しい人なんだろうと思ったけれど、企業家でもある彼にとっては、当たり前のことらしい。

ぼくは、カツオ君と2人でなんとか大魚をと思い、まる一日ポッパーを投げジグを落としたけれど、ついに一度もルアーに魚が喰らいつくことはなかった。時折、底引き漁船が船団を組んで通ってゆくのを見ると、ジグが、根が掛かりしない訳も解った。

もともとこの辺はサッフルランドという古代大陸の大平原である。それが海の海面上昇(海進)によって沈み海底は厚い泥炭層になった。

 

写真右:ポッパーを投げまくるが、あたりは無い

 

リゾートの浜辺

リゾートに帰って宿のコテージに入る。前が白い砂浜になっていて若い人たちが泳いでいる。ヤシの木陰に作られたゆったりとした広々としたコテージは、なかなか快適である。東君がビールを持って来てくれた。

砂浜には、もう夕暮れが近づいている。穏やかな海にそよぐ風、この一時は南海島の一番の魅力だ。

「人もみんな帰っちゃったから、ちょっとスプーンを投げてきていいですか?」とカツオ君は浜に向かった。

「新婚さんの穴場でしょう、ここ。」中里さんが紅に染まった入道雲を見上げて言う。

「釣り好きは、物足りないかもしれないけれどね。いいでしょうね。」東君はグイとビールを飲みほした。

カツオ君か一匹、ハマフエフキを釣り上げてこっちに手をふっている。

「釣れるじゃない。」

「小物釣り、いいかもしれませんね。」

またカツオ君は、かけたらしいけれど、大物らしい。リールの悲鳴が静かな浜辺に響いた。

「いゃー!切られていました!」とカツオ君が大声で叫び、笑顔で振り向いた。

 

写真右:小さな島は海鳥だらけ

 

歌姫と無人島

スポーツ施設のサウナに男4人で入ってから夕食を取っていると、歌のサービスがきた。

美しい声の歌姫は、日本の曲も交えて2〜3曲続けざまに歌ってくれた。

「ねェ、明日彼女を誘って無人島に遊びに行きません?」と東君。

「釣りは午前中で終わらせて、新婚さんが遊びに来ているムードを鈴木さんと歌姫に作ってもらってカメラにおさめるというのは、どうでしょうね。」と東君は続けた。

「掛け合ってみましょうか。」と中里さん。

「それなら、やはり、若いカツオ君がいいんじゃないかなぁー。あとは、3名とも40過ぎているし…ねェ、カツオ君」とぼく。

「いや、ぼく、だめですよ。奥さんに怒られるし、誤解されたら誰が責任を取ってくれるのですか?」

「それは、よく奥さんに説明してこの際、頑張ってもらいましょうよ。」と東くんもはやしたてている。

当然、中里さんがこのリゾートのゼネラルマネージャーに話してすぐにO.Kになった。

「ついでに、並んで座ってもらってね、これも写真に撮ってということで夕食のシーンからいきますか。」と中里さんは付け加えた。

「ここの食事、結構いけますよね。」とカツオ君はビールの酔いが回ってきたみたいである。そのうち、その気になったらしく、

「よっしゃー!まかせておけ!」と胸をたたくのに、そうは時間がかからなかった。

 

リゾートでの夕食、昼間、協力してくれた歌姫と

 

白い砂浜の二人

次の日の午前中、リゾートから30分ほど離れて岩のような小島が5個、海の上に並んでいるところに、ボートで釣りに出かけた。潮と風が同じ方向から流れているので、海はべたりとしている。

鳥山があちこちに見えている。

小物竿をとりだして、小さなスプーンを投げるとすぐにヒットした。次から次に釣る。10本ぐらい釣ったところで、歌姫との待ち合わせ場所の無人島に行った。

1km四方の島に上陸すると、真っ白な砂浜は浅く続いている。寄せる波が行く方向から、柔らかくやって来ては、長く伸びた砂の瀬で盛り上がってはじけた。

カツオ君は困った顔をしているけれど、昨夜の“よっしゃーまかせておけ!”と言ったのを覚えているので何も言えない。歌姫は、ニコニコ笑いながら寄り添った。

「カツオちゃん、ルアー投げてください。」日本語で。

「彼が投げたら、彼の顔を見てください。」と英語で中里さんが言う。東君がパチパチと写真をとって撮影会は、すぐに終わった。

すぐに沖に待機していたボートが近づいて、彼女はいなくなったけれど、我々4人は浅瀬でプカプカと寝そべっている。

「女の子がいるといいですねェ。」と東君。

「まあ、男野郎ばかりでも、楽しいことあるから。」とぼく。

「釣りは、男ばっかりなんですか?女の子も釣り好きいるでしょう。」と中里さん。

「ところが、ぼくらのクラブときたら野郎ばかりなんですよ。」とぼく。

「こんなきれいな島に来て、釣りばかりじゃ、やっぱりねェ。疑問を持っちゃいますよね。こうやって写真撮影の為だけで。午後はのんびりと時間を過ごすことがやっぱり、リゾートライフってゆうやつですよね。」とカツオ君。

 

写真左:歌姫との撮影            写真右:小物釣りでがんばる

 

日本に紹介されていないリゾート

親切なリゾートライフのスタッフ、おいしい食事、広いコテージ、サウナやプールもあって、ちょっぴり釣りも楽しめる。シンガポールから、このシブ島までどうやって一般の人は行って良いのかわからないけれど、新婚さんやのんびりしたい人の穴場かもしれない。

釣りに行って記者会見をやらされたり、美人の歌姫との撮影大会があったりと本当にびっくりするような釣行だったけれど、終わってみれば小物はいっぱい釣れたし、食事もうまかった。ゆとりのリゾートライフを満喫できて昼寝もできた。本来は、こんな風にリゾートを楽しまないといけない訳で、いつも朝から夜まで釣り釣り釣りと竿を振り回しているぼくらの方が異常なのであると思った。

 

写真左:左からカツオ・鈴木・ダトー会長・中里         写真右:小物釣りでがんばる

 

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