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サムネイル83回

荒れるトカラと青き石垣

 

 

豪雨の鹿児島

トカラ列島釣行のために、愛知県の三河フィッシングの釣友達と、鹿児島空港で待ち合わせた。迎えのマリンチャレンジャー号の工藤船長とも合流できたのだが、車に乗り込んで一路、薩摩半島の中ほど鹿児島湾に面した山川漁港に向かう。外は白いレースのカーテンを引いたような雨が降っている。

「去年より天気は、まだ、ましですよ。」と、三河フィッシングの黒野くん。

「悪いときが過ぎれば、後は良くなるだけだから。」とは言ったものの、雨は益々激しさを増した。

ぶん殴りの雨は車窓を叩いている。

「雨ばかりですみません。」工藤さんが気を使う。

ビッグゲームジギングではお馴染みの工藤船長は“釣らせる”というハードの部分もすごいと思うけれど、それにもまして“エンターテイメント”な人柄が僕は好きだ。

また、マリンチャレンジャーには欠かせない人が深田マネージャーである。この人は多分、関西では5本の指に入る海のアングラーでありながら、料理の腕が凄い。男の料理であるけれどセンスが良い。またジグやロッドに独特の考え方を持っており、僕も教えられることが多い。

荒れるトカラ・船上の風景

 

荒れるトカラ

翌朝、鹿児島山川港を出港してトカラ列島の口之島沖に向かう。強い風雨が行く手を阻み、結局8時間以上の時間が掛かってポイントに着いた。

午後4時、口乃島の沖でキャスティングを開始するが、一向に天気は回復しそうにない。その上、寒さも加わり、何ともトカラは花冷えならぬ“釣り冷え”の6月になってしまった。

「水深80mからだんだんと浅くなりますよ。」と、工藤船長も至って朗らかである。

「来ました!」とすぐにメンバーの一員、池田さん5〜6kgのキハダである。

小魚が湧いているわけでもないのに、高波のすれすれを鳥が、右往左往して海面がざわつき、所々で中型魚が跳ねている。

その内、ぼくのS−POPに7〜8kgサイズのスマガツオがヒットしたので一気に寄せたが、ボート近くに来た所で横から背びれが三角形で水を切りながら、ベージュ色の影が素早く近づいて来た。“イケネェー!”と思った瞬間、スマガツオは一飲みにされて、横っ飛びの水柱が上がった。頑丈な6ftのショートロッドが強力なトルクでゆっくりと曲がり始めると、PE8号ドラッグテンション10kgのリールからラインが飛び出した。

「サメだ!くそっ!」と言いながらも、体が反応してファイトに入る。3分程してから魚の引きの強さを試してもらうために、メンバー全員がファイトを楽しんだ。50kgのサメは15分ほどで浮いた。

「体がほぐれました。」とメンバーが喜んでくれた。

S−POPにでたキハダ・アングラー池田くん

 

巨大な尾びれ

翌日は、雨風共に更に強くなってきた。汗なのか雨なのかわからなくなるぐらい、ビッショリと濡れているが、湿度が高いせいか“カッパ”を着ているからかあまり気にならない。

「水深90mですよ!」と工藤さんの声が風雨の中に飛ぶ。秒速15mの風は150g以上のポッパーをかなり遠くまで運んでくれる。ただ、雨と波しぶきに霞んでポッピングがはっきりと見えない。

投げ初めて1時間もたっただろうか。ポッパーは白いカーテンの向こうから近づいてくる。もちろん自分で動かしているのだけれど、雨に打たれすぎて、実感が湧いていない。ポッパーの水しぶきが、ボートから20mの所まで近づいたとき、雨と波と風でぼやけた風景に、炸裂する水柱の中に巨大な尾鰭だけが見えた。雨を顔面に受けながら、全ての音が聞こえなくなった。ぼくは、あっけに取られて目の前で起きている異常な風景を、まるで映画を見ているような他人事に感じている。

ただ“ポカン”とした気分が心を支配しているわけである。その間は1秒の何分の1であろうけれど、心に受けた衝撃の強さを物語っている。つまり、血液が逆流し軽い貧血状態なのであろう。それだけその尾鰭は、大きいわけで、幅は1mを越えているのに違いない。

そして、今度は、体の中の血液が急激に動き出し、気力が外に向けてはじき出ると、アドレナリンは一瞬にしてその圧力によって体全体に行き渡って筋肉が盛り上がり、無意識に体が反応していく。

次の瞬間,今まで味わったことのない衝撃がロッドから伝わって来た時、ぼくは自分の体より遅く、我に返った。

「GTですよ!巨大な!」と誰かが叫んだ。

「化け物だ!」「なんだ今のよく見えない!」とまた誰かが叫んだ。

S−POPにでたギンガメ・アングラー赤堂くん

 

恐怖心と闘争心

大魚は30mラインを出して止まった。たぶん海底に着いたのだろう。ここから、こいつの頭を持ち上げながら上手く泳がせて浮かせなければならないが、ロッドから伝わってくるものは“圧倒的な殺気とパワー”である。ぼくは心の中に湧いた恐怖心と闘争心が、更に筋肉を高ぶらせたのを感じた。

20分がたった。ドラック10kgオーバーでのやり取りで、ぼくの体の限界に近づいていることを示している。握力が低下した。疲れのバロメーターである乳酸値も、かなり高くなっていることから、腕の筋肉が限界に近づいているのがぼくには解った。一気に勝負をするか、ドラックを緩めて、筋肉の乳酸値の増加率を抑えながら体力を維持し持久戦にするかである。

が、ぼくは前者をとった。勝負である。後15分はなんとか持つような気がしたが、その後は解らない。

つまり、100%の力で勝負しなければならないのである。日頃60%ぐらいの力でヘラヘラと上手く交わしていたぼくにとっては、異常なことである。ヒットから40分、のどが乾き、汗が止まる。限界が近づいた時ショックリーダーが見えた。その下にそいつは姿を現した。無駄のない体型、冷たい視線、血がにじむ剃刀の歯、殺し屋と異名をとる魚が水面下1mのところまで浮いてピタリと止まった。   

 「サメだ!」

「すげえ、でかい。こいつは!」

ぼくは、深田さんにラインを切ってもらってこのファイトは終わった。

「3mぐらい200kgくらいですかね。」と深田さんが冷静に言う。

「GTだったら、一体何kgでしょうか・・・?」と誰かが続けた。

「釣りに“だったら”は無いですよ。」と言いかけて止めた。

その次の日にGTをかけたけど、また、サメに食われた。マッチョなサメに3日連続鍛えられてから、石垣に戻った。三河フィッシングとマリンチャレンジャーにはお礼と来年のリベンジを約束した。サメもりっぱなゲームフィッシュなのだけれど、日本人であるぼくの偏見はやはり、取り去れなかった。でも、“来年は釣り上げてやる”と思った。

S−POPにでたスマカツオ・アングラー黒野くん

 

青き石垣

石垣に戻ると、今年の4月にマルケサス島を1ヶ月共に旅をしたメンバーが遊びに来てくれていた。

考古学の篠遠教授、作家の夢枕獏さん、写真家の佐藤秀明さん、3名とも釣りの名手であるけれど、釣りへのアプローチがそれぞれに違っている。篠遠さんは太平洋民族学と古代の釣り針の大家であることから発掘に必ず釣道具を持って南太平洋の島々に出かけている。獏さんは鮎釣りにはまり“釣り“のお誘いは基本的に断れないらしい。

佐藤さんはハワイやアラスカ、チベットへ写真を撮りに行ってもカメラと釣り竿は離さない。

6月24日、快晴,気温31℃ 南の風3m、波1m、石垣のリーフはライトブルーに光り輝き、次々にコーラルフィッシュが釣り上がる。

「ぼくはねぇ、これがやりたかったです。」と佐藤さん。

ぼくがカスミアジをトップで釣ると、すかさず

「釣れるべき人に釣れるのですねぇ。」と獏さんが笑う。 

「日本にもこんないい所があるんですねぇ。」とハワイに住んで50年になる篠遠先生はつぶやく。

彼らには、明るい南の島がそこにあるわけである。

ホスト役のぼくとしては、満足している3人を見てホッとした。

 

篠遠さんの釣ったアミメフエフキカスミアジがかかった

 

巨大なサメと、かわいいコーラルフィッシュ

釣りは、どんな釣りでも釣りなのだけれど、あの巨大なサメと、かわいいコーラルフィッシュと、どこが同じなのだろうか?とふと思った。

ルアーでの巨魚フィッシングは時折マラソンと格闘技のような側面を持つ。大魚を釣り上げても、しばしば、アングラーは敗北感や大魚への畏敬の念を持つ。コーラルフィッシュはスプーンなどで簡単に誰でも釣れる。フックで引っ掛けているのだから痛いだろうなぁーと思うけれど、引きを楽しみ、魚の美しさを楽しみ、逃がしてやることで魚は元の居場所に戻る。

「だから釣りは、おもしろいのだよ。」と、誰かに言われそうである。

 

佐藤さんの釣ったカンモンハタ

 

夢枕獏さんの釣ったクマドリ

 

旅の問い合わせ 

マリンチャレンジャーTEL 090−1871−0322

FISHERMANチャーター部 TEL 09808−3−5318

タックルの問い合わせ

三河フィッシングTEL 0563−73−5273

使用タックル

ロッド  MONSTER CC 70 

YELLOWTAIL B.G 70H

ルアー  S-POP MONSTER200・150

ライン  アバニ80lb