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サムネイル87回

 

ラーからシャビアニアトールまで往復700km

マザーボートで行く北モルジブの釣旅

後編、魅惑のGT天国

「嵐のママクヌドゥーから晴天のシャビアニ」

 

ラーの北端、アリ島

11月21日の日没、ラーアトールの北端、アリ島の港に入った。子供が幅1mぐらいのコンクリート岸壁の上で器用にマウンテンバイクやローラースケートボードで遊んでいる。この島には造船所があって経済的には恵まれているらしい。日が落ちてからも、広い港に次々とカツオ漁の船が戻って来て賑やかだ。

「明日のことなのですけれど、ママクヌドゥーに行けるんじゃないかって、船長が言っています。ここからでも4時間は掛かりますから、早朝に出港して9時前後に到着予定です。」と東君が言う。

「・・・・・・・・。」

「何しろボートスタッフも行ったことのない所なので、みんな、ウキウキしていますよ!」と続けた。

ママクヌドゥーは、モルジブの最西端にあたり、北東から南西に30km伸びるナメクジ型の環礁であるが、ぐるりと取り巻くサンゴ礁には、ほとんど出口が無いらしい。午前5時、コーランを歌う声が静かな島に響き渡る。長い短調の曲のようにどこか寂しい響きを持っているけれど、透き通った太い声が、人々に呼びかけている。

 

写真左: ファイ中の筆者             写真右: 25kgオーバーのGT S−POP170 GIANT TUNA70

 

イスラムとモルジブ

モルジブのイスラム化は11世紀に遡る。本格的に広がり始めたのは、15世紀前半以来、強力な武力とイスラム教をバックに拡大しつつあったオスマントルコ帝国の存在が大きい。

モルジブに、ムスレム(イスラム教徒)の商人やウラマーと呼ばれるイスラム学者、布教者が、次々と来島し、さらに東南アジアに向けて通過して行く。大帝国オスマントルコの富と文明は、この海道の東端に当る東南アジアの支配階級に魅力的だったに違いない。そのため、この海道は貿易風、季節風による海のシルクロードと呼ばれるぐらい大貿易ルートとして発展して行った。

その通過点にモルジブがあった。東西貿易ルート上にある港都市は、イスラムの共通都市プランと、イスラム教義による秩序維持が求められた。モルジブの首都マーレーも例外ではなく、空前の経済的繁栄と共に、仏教寺院が壊され、その上にイスラムの寺院が次々に建てられていった。

その結果、現在にいたるまで彼らの生活にイスラム太陰暦が用いられ、毎日の礼拝と金曜日集団礼拝、断食、男子の割礼、土葬が徹底される。一方、高度な天文学や航海術、土木建築学、地域の習慣と習合し、東西貿易の拠点として首都マーレに見られる海上都市は海洋文化圏を形成しながら発展していった。

お祈りが終わるとボートスタッフがアンカーロープを上げ、船は港から外洋に出て、直にママクヌドーに向かって北上し始めた。

 

写真左: 25kgオーバーのGT LONGPENN100 GIANT TUNA70 写真右: フィッシングドーニー、シンドバット号からキャストを繰り返す。

 

巨大な軟体動物

赤道近くはどこでもそうであるけれど、午前6時、版を押したような太陽が昇り出した。つまり、午前6時に日が昇って、午後6時に日が落ちるのである。

9時30分、無風の青い海の彼方に真っ白い蜃気楼のような塊が見える。近づくにつれてその塊は、巨大な軟体動物の様にクネクネと動きだした。

「何ですかね。波ですか?」と東君。

「大きな違う方向からのうねりが、サンゴ礁の上でぶつかっているみたいだね。」とぼく。

晴天の太陽が9時を回ったところで、海は青く、空も青く、雲と波は白く輝く、海を見ている限り他の色を感じないほど圧倒的な青と白なのである。

「風も無いのにすごいですね。波が白く尖っていますよ!」と山本君は驚く。

インド洋を見たとき南極近くの高気圧から南東貿易風が、アフリカの沿岸をかすめて回り込み大きなうねりとなる。一方、ぼくの訪れた冬期はモンゴルの上に発生する大陸高気圧によって、北東モンスーンが生まれ北からの大波を作る。それらが、このママクヌドゥー環礁の南端でダイレクトに当って地球規模の三角波が出来ているのである。ちなみに、日本の南極大陸昭和基地はモルジブの真南あたりにある。

写真左: リーフエッジに出来たクラゲのような水しぶき        写真右: 面倒見の良いシーマン店長山本カツオ君

 

嵐とシックスセンス

10時、我々のフィッシングドーニーはママクヌドゥーを西周りに外洋を走り始めた。1時間は走っただろうか、真青な北の空の水平線が帯状に真っ黒に変わってきた。それは、みるみると我々の方に向かって空を覆いだす。

さっきまでの穏やかな海の青さなど、黒雲の中に吸い込まれていった。暖かい南風が何かにぶつかったように止むと、今度は10秒もしないうちに冷たい空気が圧縮された衝撃波の様に襲ってきた。

豪雨の境が空と海を灰色一色に変えて行く。

我々のドーニーは、それでもエッジに沿って走っている。

「大丈夫ですかね?」と山本カツオ君。

「前線の雲が通ってしまえばいいのだけれどね。ちょっと荒れそうだね・・・。」

寒冷前線が今、まさに通過するわけである。

「エッジの波がおかしいです。」とカツオ君が指を指す。

大波が打ち寄せて砕け飛んだ。波しぶきが強風に煽られて押し戻されている。まるで、ワルツを踊るクラゲのようにフワフワと空中を漂ってから、また強風に吹き飛ばされる。そのほんのわずかな間に、時間がスローモーションのように動き、それを取り戻すかのように急激に時間が動く。つまり、時間が遅くなったり早くなったりするような錯覚をぼくは覚えた。突然、スコールは容赦なく降り注ぎ、ボートはスロースピードで風に向かっている。

「しばらくは、この状態の方が安全だね。まだ、雷が鳴らないだけ幸せだよ。」

格言に“三十六計逃げるに如かず”とあるけれど、今回の場合はリーフの影になるこの場所で、じっとしていることが基本である。

「まったく天気図も無いのに、よくボートクルーは分かりますね。」とカツオ君。

「彼らは経験的に雲や風や潮で海が分かるし、第六感みたいな感覚があると思うよ。」

「シックスセンス、そんなもんですかね!」

「そんなものだよ。」

 

写真右: 25kgオーバーのGT  S−POP170    GIANT TUNA70

 

我々は嵐が通り過ぎるのを待つ以外、打つ手は無いわけである。雨は激しさを増してリーフエッジさえ見えなくなってしまった。幸いにも、ママクヌドゥーのサンゴ礁が、打ち寄せる風波を食い止めてくれている。秒速15m以上は風が吹いているわけだが、雨の音と時折、大波が砕け散る低音の振動が体に響く。

風が南から北に変わって、気温が5度ぐらい低下したことを考えるなら、寒冷前線が通過していることに間違いは無いだろう。ぼくらはじっと体を寄せ合って四方山話をして過ごした。しばらくすると、少し嵐がおさまったところで、スタッフの一員がぼくのところにやって来て、「引き返してもいいか?」と無表情に聞いた。

もちろん「OK」と答えるわけだが、彼に天候の状況を聞いたところで何の解決策にもならない。

我々は、黙って彼らに従うのが得策である。ここまで来たのだから、ルアーのひとつでも投げたい心境だが、ヒットしてしまうと厄介なことになる。ここは“三十六計逃げるが勝ち”である。逃げれる時に逃げておかないと海は恐ろしいことになりかねない。また、2時間ひたすら走ってマザーボートの待ち合わせポイントに戻った。我々は、何をしにあそこまで行ったんだろう・・と思ったけれど、無事に戻れただけでも幸せである。

風が少し止んできた。雲が切れてきて薄日が射してきているが、雨は時折強くなる。結局、ママクヌドゥーでは釣りはほとんど出来なかった。他の一艇は、マザーボート船の近くにいたので、あの雨の中でポッパーを投げていたらしい。

「40kgのイソマグロと30kgのGTが釣れましたよ!」と東君。

 

写真左: 突然のスコール     写真右: 水谷君・・・筋肉トレーニングを欠かさない。ガッツもなかなか  ロングペン100B

 

晴天のシャビアニ

食は、ママクヌドゥーからシャビアニアトールに向かう船の中でとった。午後3時、シャビアニアトールの北端ゴイドー島まで来たとき、我々はフィッシングドーニーに乗り換えた。

「アウトリーフではなく、少し中をやってみようか?」と僕が提案すると、

「いいですよ。」と、みんな同意してくれた。潮に沿って、インリーフの流れに沿って内側に入っていくとGTは釣れるけれど、サイズが小さい。我慢し、釣りながら上がっていくと小さな島の横に差し掛かった。何の変哲も無いエッジに見えるけれど、潮が湧きあがっているところが見えた。ベイトがそのエッジに沿って浮いている。僕は一度インリーフにキャストしてから、エッジでスローのショートパンピングをすると、ドカンときた。3分でランディング。サイズは30kgだった。更に紺野君、山本カツオ君、初鹿野君、岩本君、と次々に25kgオーバーを釣り上げていった。

「この200mぐらいのところに固まってますねえ!」とカツオ君。

もう一度、引き返して同じところを攻める。その内、紺野君のロングペンが消し飛んだ。

「でかいですよ!今の!!」とカツオ君が紺野君の横であれこれと指示を出す。

札幌のシーブリーズ店長、紺野君に良いサイズがヒットした。彼は実際に大GTを掛けるのは初めてらしい。ラインはどんどん出ていくのだけれど、落ち着いて止めにかかる。横でカツオ君がアドバイスしているのも手伝って、5分程のファイトの後、グッドサイズのGTは浮いた。

「嬉しいです!このサイズ!!鈴木さんのビデオで研究した甲斐がありました。」

「ロングペンの動かし方が良いよ!」

「北海道のGTフリーク新谷さんに小樽で特訓してもらって、ロングペンのドックウォークをマスターしましたし、キャスティングは近くの沼で投げてたんですけど、人が寄って来て“何釣ってるの”ってね。だからGTだと答えたんですけど“???”てな顔をしている。そういえば北海道にGTはいませんものね。」と紺野君は彼独特の惚けた言回しで答えた。

「姫路でも田んぼや港なんかで投げていると、必ず人に聞かれますよ。でも、練習しないと上手くいかないって、うちのお客にはいつも言っているんです!」とGTショップの先輩カツオ君。

「このサイズは、なかなか釣れないんだよ。モルジブの海の神様に感謝しないとね。」と続けた。

「今日、マザーボートに戻ったら、みんなとビールで乾杯しようよ。」と紺野君。

これでまた1人、北の国にGTフリークが生まれたわけである。

次の日からもGTはいっぱい釣れた。今回のマザーボートで行くモルジブ釣行で、400匹以上の魚が釣れて、その半数がGTであった。そして、25kg以上のGTが42匹、つまり42分の200となり、5匹に1匹の割合で大型GTが釣れた事になる。この数字はモルジブのような赤道近くのGTの数が多いフィールドとしては大変なもので、大型のポッパーを戦略的に使い、大物だけを狙っていたことが大きいが、それよりもランデイングできる技術と体力、それを支える道具が向上したことに他ならない。

 

写真左: 北海道札幌シーブリーズ店長の紺野君が釣った40kg近いGT       写真右: フライングフィッシュ号

 

技術・体力そして心

日本も世界も釣旅と言う面では、どんどん狭くなっている。まして、GTFのテクニックなど、ビデオでシュミレートして実釣で実戦してみる。回りにFISHRMANのGTフリークがいれば、尚更すぐに覚えてしまう。

この2〜3年でGTFがすごいスピードで多様化し、エキサイティングになってきた。自分が始めた頃の苦労話などする暇は無い。技と体が急速に進んでいるけれど、心の部分が見えなくなる時代が近づいているのだろうか。と思うと、ふと寂しくなったが、若いアングラーの熱気に消されてしまう。

夕焼けが広がりだしても、だれも止めようとは言わない。ばくは、少しづつ、暗くなって行く海を見ながら、何時までも、モルジブがGTFにとって良い状態であってほしいと思った。

 

写真左: フライングフィッシュ号からフィッシングドーニー、シンドバット号に毎日乗り込む。 写真右: 夕暮れのモルジブ 筆者と初鹿野君

 

21世紀のGTフィッシング

1週間かけてモルジブの北方アトールを回ったけれど、GTアングラーが入っていないエリアになるとGTが爆釣する。ぼくも、釣り人だからポッパーを投げまくり、大きなGTを釣りまくるけれど、夕方、母船のサファリボートに帰るころには,心の中に冷たい風が吹く。21世紀も、我々アングラーにとっての魚は釣られ続けてくれるだろうか?疑問と答えは、何時の世も表裏一体となってつきまとってくるわけである。投げたら釣れた時代から、考えて、育てて逃がして、また釣る。決して釣ることが先ではない時代が21世紀なのである。

これからも、ここモルジブがGTフィッシャーマンの楽園であることを願って、今回の釣行紀行を終わりの言葉にしたい。

 

旅の問い合わせ

ワンダーブルーTEL03-5433-7221

タックルの問い合わせ

シーマン・・   TEL0792-45-3412

シーブリーズ・・TEL011-733-3888

 

使用したタックル

ロッド・・GIANT86 YELLOWTAIL BG70  MONSTER CC

ルアー・・S-POPmonster170〜250  LONG PEN100〜110

ライン・・アバニ60〜80lb  MAXPower6号