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サムネイル98回

 

モルジブ最北端への旅   前編

55kgGTとの遭遇

 

太陽の下、シャビアニの西

前線が通ると風が北風に変わっていた。赤道直下のモルジブといえども、北端は北緯7度であるからして北半球というわけだ。海の色も、まだまだ青いのだけれどほんの少しグレーが入ってしまうと、やはり色あせてくる。

「外洋に出よう!」と、ぼくは決断した。

昨夜までの好天がウソのように風が強くなった朝7時、インリーフに停泊しているマザーボート“フライングフィッシュ(飛魚)号”から、フィッシング用に同伴して来た小型ドーニー“ビスタONE”に乗って飛び出してみたものの、「さて?」どこに行こうかと迷っていた。

安定しない天候は、北西の季節風を強めている。ぼくはリーフが気になっていた。

ここはモルジブ最北端のホバンドヒポハアトール(havand hippoha)から100kmほど南のシャビアニアトールを北上しているのである。うねりが西側リーフに大きな波となって打ち寄せている。

「サーフィン出来そうですね!!」と、小林君が言う。

「モルジブの北の方は、インド洋南西海流が強くなるみたいだね。風も今日なんか秒速7mというところかな・・」

「おかげでポッパー、100m以上飛んでいますよね!」と、小林君が続けた。

“ビスタONE”は、やっとシャビアニアトールの西側にうねりを乗り越えて出た。ぼく達は、船首から一人がルアーを投げ、

続きのアングラーが続々と投げるという形をとった。つまり、グルグルと回りながらキャスティングを繰り返した。

 

大魚の前兆

ベイトボールを見つけてキャストを繰り返すと、直ぐにバイトする。

「今日のは大きいですよ!」と、小林君が直ぐにグッドサイズのGTをヒットさせた。

「どんどん持って行きます!!昨日のとは、違う引きですね。」

「天候が悪い方が魚も元気が良いのかもしれないね。」と、答えた。

紺野君がまたヒットさせて、ぼくも1匹、岡山の港君は30kg近いGTを2匹立て続けに釣ると、ボートのクルーも“今日はいけるぞ!”と、言わんばかりに張りきり出した。

本当に休む暇を与えてくれないぐらいGTのバイトは続く。

「今日はスゴイですね!」

「こんなことは、滅多にないね。しかし、大きい・・。今日は、もしかしたら大きいのが出るかもしれない。」

「時化ると大型のベイトがリーフに接岸する。それを追っかけて、大型のGTもやって来る。それに、海が荒れるとGTも警戒心が薄くなって無警戒にポッパーを追う・・・・。」と、ぼくは続けた。

午前11時、GTのバイトは少し遠のき出した。1日100kmは移動しなければならないのだから、釣り半分、移動半分と言うことになる。しっかりしたポイントを見極める目が無いとダラダラとした釣りになりかねない。

ぼくは、少し思い切って移動距離を延ばした。うねりの中を“ビスタONE”は良く走った。8ノットというスピードは、ぼく達が

トローリングで使うスピードなんだけれど、モルジブのドーニーはほとんどがこのスピードである。

「のんびり行こうよ!」と、耳元で誰かにささやかれたような気分になると、自然に体はこのスピードと波の動きに合ってくる。こうなると、“海体”という船酔いをしないし、疲れない、海の上で生活できる体質になる。

 

写真左:筆者 ロングペンの花火カラーで釣ったGT   写真右:港君 K-ROG21で釣ったGT

 

ラマダンと昼飯

昼に一度、リーフの中に入って食事をとる。モルジブはイスラム教国で、ちょうど“ラマダン”(断食月)の始まる日にあたって

いたため、クルーは誰一人として食事をとらない。

「いつ食べているのですか?」と、紺野君。

「日没後、7時ぐらいと夜中の2時ぐらいだったかな・・あとは水も飲まない。約1ヶ月間だけど、太陰暦だから28日間かな・・

断食明けは、みんなで祭をする・・・」

「ぼく達だけ食べて悪いみたいですね・・」

「そんなことはないよ。それぞれの習慣があるのだから、ぼく達はぼく達の習慣で動けば良いんじゃないかな。」

食事は、スパゲティにちょっとしたサラダとフルーツが付いた。20分ぐらいで食べ終わって、また釣りを始めた。

2時近くになり、チャンネルからロングリーフに出て潮が動いているところを見つけた。エッジから150mぐらいの幅で、

水深が10m前後のテラスが見えるが、潮の動きは浅い割に良い。大波は、相変わらず打ち寄せてくる。

水深が浅い分、砕けるタイミングはエッジから遠い。ボートを、波の砕けているポイントから200mぐらい沖に離してキャスティングを開始する。浅いテラスの中ぐらいにルアーが落ちると、アカマスの大群が襲いかかる。

ぼくは2本続けてアカマスが掛かってしまった。

運良く小林君が25kgのGTを釣り上げたが、みんなアカマスに悩まされながらGTを釣った。

 

 

大魚とスピニングハーネス

2時半、ぼくのロングペンにアカマスの群れが襲いかかった。

と、その時、横から黒い影がルアーをかすめる様にバイトした。

“ドンッ”鈍い衝撃がロッドから伝わる。かなり強引に合わせてから、ロッドを少し寝かせて魚を止めた。魚は直ぐに止まった。“アカマス”かな・・?と、心のどこかで思った。次の瞬間にラインは激しく引き出された。もう一度プレッシャーをかけて、エッジの手前で魚を止めた。

感覚的に大魚である。ここからエッジに沿って泳ぎ出したのを確認してから、沖に泳ぎを誘導する。大魚は、ドーニーの船首から前に100m先をゆっくりと沖に向かって泳ぎ出している。ぼくは、無駄な刺激を避けて泳がせた。大魚は、船首を中心に半円を描くように沖に向かって止まった。

ぼくは最近開発したスピニングハーネスでロッドを固定すると両手から力が抜けた分、楽になった。ヒップと腰からホールドベルトを取るこのハーネスは、大魚とのやり取りと腰のホールドを考えて作ったものである。

実際今までぼくが本気で使ったのは6月に釣った300kgの鮫ぐらいで、後はほとんどがテストのためである。それに腰を常にホールドしてくれるので、GTFのように一日中立ち続ける釣りには腰を痛めないで済む。

ファイト中の筆者

 

大魚の制御

ボートをバックさせて、再び船首の方向に魚とのポジションをとった。ここからが勝負である。大魚は完全に動きを制御されたことを不快に思ったのであろう。再び沖に向かってラインを引きずり出すが20mも行かない。また、半円を描きながらボートに近づいてくる。魚の動きを計算してボートをゆっくりと後進させた。大魚はボートに気がついて深く沈もうとした時には、既に間合いは30mを切っていた。

“せいぜい潜って20mだ・・”と、心の中で思ってリフティングを始める。1回のポンピングでリールは2回巻けた。つまり、2mづつ浮上しているのである。大魚は自ら泳いで上に上がって来ていることを意味している。ぼくは、大魚のリズムに合わせてポンピングを繰り返す。ヒットしてから5分後、15mの水深で大魚は横に平を打ち始めた。ゆっくりと回るように船首の直下でグルグルと泳いでいる。5分30秒、巨大なGTの形が水面下に見えた。

「大きい!」誰かが叫んだ。

「大きい!!」また誰かが言う。

ショックリーダーが見え、キャプテンがリーダーをとる。テーラーが尾鰭に吸い込まれるようにかかった。

“ついている!!”と、なんとも言えない満足感が広がり始めた。

しかし、大魚は重過ぎてなかなか持ち上がらない。キャプテンは上半身を海面に折り曲げてロングペンをつかんだ。ロングペンには、自分で開発した試作品のトリプルフック“KG120 6/0“が1本付いているだけである。このまま持ち上げてフックが伸びたら、「万事休す」になるのである。あのままフックが伸びたら、テーラーはその衝撃でワイヤーが抜ける“と思ったけど、どうしようもないのでクルーを見ているだけである。

“ついている・・”再び心の中で思って目をつぶった。

「でけぇ〜!!」と、小林君の声が聞こえた時、大魚はデッキに上がっていた。

検量はしなかったけれど50〜60kgぐらいはありそうなので55kgとした。写真を撮ってリリース。

なんとも嬉しい1匹である。

 

55kgオーバーのGT

ロッドGT・GAME・T RS  ルアーLONGPEN100

 

トレーニングのきっかけと心、技、体

考えてみれば、この1年あまり良いことが無かった。自分の体が少し変調を見せ、それに加えて左足の膝を痛めた。

半年間、足を引きずって過ごしてみると、健康というありがたさを嫌というほど思い知った。5月には父が死んでさらに

落ち込んだ。

そんな中、以前から開発していたスピンニングハーネスが完成した。テスト中に300kgのサメを50分のファイトで釣り上げたが、ほとんど疲れていなかった。

“イケル!”と思った。

直に、トレーニングで自分の体を鍛え直すことにした。1日2時間、毎日続けた。初めの2週間で6kg痩せた。キャスティングやファイト理論を基本から考え直しながら、筋肉を部分部分に分けて、それぞれを耐久性のある持続型筋肉に変えた。ヤップ島、パプアニューギニア、大間、モルジブと1ヶ月の内の半月は、釣り竿を担いで釣行に行きながら体が元に戻るのを感じた。その間にタックルを進化させた。

体ダメージをいかに軽減するかを考え、ロッド、ハーネス、フック、ショックリーダーと次々と完成させた。ロッドは新しい理論のRSシリーズ、ファイテングベルトはアルミ厚板を金型で抜き、ソーサ部はマグネシューム・アルミ合金を削りだして作った。これはスピニングハーネスと組み合わせることで大魚とのやり取りを非常に楽にした。

PEラインは、モーリスのMAXパワーがさらに進化した。ショックリーダーは伸びないPEラインの衝撃吸収型のスーパーステルスを開発し、フックは兵庫の釣針作りの名人と言われる大一製針株式会社 岸本一夫さんにお願いして120kgまで耐えられる6/0のトリプルフックを試作で作ってもらった。

“心・技・体” + “運・勘・根”と、大魚を釣るために6つの要素が揃って約6分で釣り上げることが出来た“大魚55kgオーバーGT”であった。

 

釣り針作りの名人、岸本一夫さんが作った120kg

までOKなトリプルフックの

“FISHERMAN KG120 6/0” 

今回この大魚を釣った後も変形が無かった。

 

旅の問い合わせ

ワンダーブルー ・・東 03-5791-5686

タックルの問い合わせ

FISHERMAN・・0980-83-5318

シーブリズ・・紺野 011-733-3888

三河フィッシング・・清水 0563-73-5273

 

活躍したタックル

ロッド・・GT・GAME・T RS  MONSTER CC70

ルアー・・LONGPEN100  S-POP170

ライン・・モーリス MaxPower6〜8号

ショックリーダー・・スーパーステルス170lb

活躍した新ファイテングベルト

FISHERMAN スピニングハーネス

FISHERMAN ドッグハーネス B.G & L.G