FISHERMAN

小笠原の巨大カンパチ

1996/7

さらに進むと、飛び出した東崎が、見えて くる。その沖1マイルの所に根があるそうである。

「頭が40の山(根)だから、だんだんと登って、スパッと120mぐらい、落ち込んでいる。」と

ケンさんが、こまめに海底地形を説明してくれた。

風と潮から見て、魚は潮上の根の落ち込みにいるはずであるから、船の流れを計算して、ジグを落とし始める。一流し目、40mの頭を過ぎたところで、ジグを落とす。120mの海底に素早く10ozののジグを送り込み、底をとってから、100mの所まで、ハイスピード ジャークでジグを上げる。カツカツという小さな鈍いアタリが手に伝わってきたので、誘いをかけるために、ロッドを細かくシェイクしながら、更に10mルアーを上げる。

またカツカツと小さなアタリがしたので、大きくしゃくって、細かくロッドをゆらして、誘ってみると、ロッドごと海に持って行かれそうな、すごいアタリが襲ってきた。瞬間、この魚が大魚であることを、僕は確信することができた。一度走りだした大魚は、自分の生活域まで戻ろうとする。幸いなことに、この魚の生活域は、この40mの根ではなく、250mの深海なのであろう。350mのラインは、一気に50mを残してすべて出されてしまった。船で魚を追いかけることはせずに、ラインの位置が船底に入らないように、ケンさんに船を回してもらった。ヒットしてラインが止まった時が、pm1:20であるさて、ここからのポンピングである。魚探を見ながら「200m水深」とケンさんが言う      

まず鋭く、短くカウンターのようなアワセをもう一度してから、ハーネスの位置を決めてポジショニングを決める。大魚が暗い海底で、次の行動を決めかねている間に、フットポンピングでゆっくりと7.6ftのロッドを、半円を描くように曲げて、プレッシャーをかける。やがてゆっくりと、ロッドトップが持ち上がるのを確かめて、更に巻き取って

再びプレッシャーをかけると、ゆっくりとジワジワと魚の頭が少しずつ持ち上がるのが、わかった。それから一気に巻けるところまで、巻き取るわけで、ここでリールにラインをためておかなければ、次の走りは、ラインブレークにつながってしまう。ラインを150m巻いたところで、魚はボートの真下に入ってしまった。ここでロッドの角度を付けすぎると、ロッドがブレークしてしまう。ロッド角度をゆるめてのポンピングをして、さらに

続ける。pm1:30、魚はゆっくりと泳ぎながら、赤い魚体を浮かせた。ケンさんがギャフを打って、2人で魚をボートの上にひきずり上げた。

「アカブリだよ・・・」とケンさんは、ため息にも似た声で言う。

「たすからねェなァー」また、ぽつりと言った。

200mの海底から、一気にひきずり上げられた魚は、その水圧の変化をまともに受けたに違いない。釣り師は、釣った喜びと、魚を殺した落胆を同時に味わうわけであるが、喜びの方が、はるかに大きく、自分もやはり釣り師であったかと思い知らされたのである。「ヒレナガカンパチだよ、大物をアカブリと言うんだけれど」とケンさんが説明してくれた。午後2時、その日は、ロッドをしまい、甲板で昼寝を決め込んだわけで、4時に磯から上がってきた、村上さんに、選定と検量をお願いした。魚はヒレナガカンパチ、全長186cm,体重50.0kgであった。

 

鈴木文雄の連載“南海島小紀行”より抜粋