FISHERMAN

 

 

ロッド・・GIANT86

ルアー・・LONGPEN100

1997年11月

Angling

南海島小紀行ムラク環礁後編より抜粋

 

 

LONGPENとナポレオン

1997/11

夕方頃から、ちょっと海に風がでてきたみたいで、波がリーフエッジに、大きく砕けだした。北の方からスコールの近づいてくるのが見えた。ちょうど大きな無人島のコーナーに潮が渦を巻きながら、風におされてハタハタと波打ているポイントを見つけた。一投目に、海面に飛び上がったGTは、ゆうに30kgを越えるものであるが、ルアーごと押し上げられてフッキングには至らない。2投目、3人のアングラーのルアーにそれぞれ魚影が走ったと思うと、ドカンドカンと、チェイスが繰り返されたが、僕のだけはバフゥ!!と、掃除機に大きな紙が吸い込まれたような妙な音がして、渦の中にルアーは消えていった。ワンテンポ遅らせて、思い切りバットエンドを腰に当てて、横合わせを5回続けざまにすると、恐ろしい力でロッドがググッと曲がり次にラインがギューンと飛び出した。それは、乾いた引きではない。蒸れた、“べっちょり”とした重苦しいトルクのある。その上出されるラインはスピードにのっているのである。グイグイとそれはとめどもなく続くと思われたが、100mぴったりでエッジのボトムに達したに違いなく、ピタリとラインが止まった。僕はロッドのフロントグリップに両手を置き、腰を目一杯沈み込ませながら、ゆっくりと引きずり上げるべく、フルフットポンピングでリフトする。大魚は、ゆっくりと頭をこちらに向けて泳ぎだしたかに見えた。上保君がハーネスをつけてくれたので少々楽になった。3分後、青緑色の魚体が反射する海面にかすかに見える。「何あれ、見たことが無い!?」と高橋さん。

ところが、底から上がってこないのである。ドラッグテンションを上げて魚を押さえ込み、僕は左膝を後ろに引いて、デッキに落とし、更に両手を巻き込むようにフロントグリップを握りなおして、ゆっくりと膝を上げる。魚が完全に横になるのを見届けて、両手ごとロッドを絞り上げる。ゆっくりと海面に浮いた大魚は、オデコに大きなこぶが飛び出ている。「ストロングフィッシュ!!」とランジットが叫ぶ。

「鈴木さん、何ですか」と高橋君。「ナポレオンフィッシュ」と僕。

「どうやってランディングしたら良いですか」と上保君。

「くちびるにギャフを打って、重いけど持ち上げてくれる?」

と僕。

ところが、ギャフをもって持ち上げようとするが、一人では持ち上がらない。結局3人がかりで、ボートデッキにあがった魚は巨大なメガネモチノウオ、通称ナポレオンフィッシュである。比重が重く、滅多に釣れない珍しい魚である。

「40歳以上だろうね。すぐにリリースしてあげようよ」と僕。 

「ロングペンにヒットするんだね!!」と酒本さんが驚く。

「30cmあるロングペンが小さく見えるね。1m30cmぐらいかな?」と答えた。

「モルジブで一番高い魚、1kg46ドルですと船長が言っている。」とランジット。

みんなで写真をとって、触らないようにして、すぐにリリース。

「僕と同じくらいの歳の魚釣っちゃったね。もう釣られるなヨ」とご同輩のよしみで見送った。ナポレオンフィッシュは和名「メガネモチノウオ」と言って、目の近くに赤黒い刺青の様な糸模様がある。またウロコが大きく、このサイズになると、直径15cmぐらいあるかと思われる。幼魚の時代は、インリーフにいるが、大きくなるとリーフの外に出て、タカサゴやフエダイ等を襲う。ベラ科最大のお魚で、成長が著しく遅いので、かなり貴重な魚と言って良い。また外部はヌメリで覆われているので、魚を保護する意味でも、あまり動かさず、手で触ることは避けた方が良い。