トップページへimg

サムネイル12回

バリ島釣紀

 

遠い夢を見た。風の民の夢である。

大きなウェーブの大海原のかなたに小さな三角形の帆が、ぼんやりとゆっくりと近づいてくる。

かすかにヤシの木陰にいるような、やわらかい風を感じた。

 

バリ島ベノアポートから出たボートは、ヌサ・ペニダ(悪魔の棲む島)に向かっている。

北方に神の棲む信仰の山・G.アグン(3,142m)が、雲の上に赤い炎の斧を、今にも持ち上げる巨人のようにそびえていた。海はその青さを増し、序々に青黒く、深く、冷たい色へと変えていく。

一時間もしないうちに、ヌサ・ペニダ島の海岸に着いた。断崖は、朝の逆光の中にそそり立ち、死んだ魚のように色褪せた、無彩色の壁面を見せている。うねりは、大きな波となって、ぶつかり、はじけ飛び、砕け、うなりを発して、巨大な白い泡の流れとなって消えていった。                          

 

 

崖沿いにルアーキャスティングをして、30分もたった頃、ゆっくりと浮上してきたオニイトマキエイが、周りの小魚ごと僕のルアーを呑み込んでしまった。こうなったらラインを一番短い所で切るか、飛び跳ねた瞬間に、ラインを緩めてはずすかしかない。

このルアータックルでファイトすること自体、長時間を要して、結果、このダイバーのあこがれの魚を弱らせてしまうからだ。幸い、3分後、200kgオーバーの巨魚は、空中に飛び上がってくれた。

昼近くになると、潮の流れは崖にそって、河のように流れ始めた。

浅い所では盛り上がり渦となっている。

魚探には、イソマグロであろう、大きな魚の影が映し出されている。

300gのジグにかすかなアタリの直後、7kgのドラッグのリールから100m近く、ラインが引き出されてしまった。船長は、すぐに反応して、ボートで追いかけ始めた。

10分後、かかりが浅かったせいか、惜しくも肉切れをおこして、魚からルアーが外れてしまった。それでも僕は十分に満足した。

 

夜、ビデオ撮影のため、同行しているK.GOODPLANNINGCO.,の吉田君と佐藤君と3人でデンパサールのレギャン通りに繰り出した。

焼鳥屋に似た大きなオープンエアのレストランと雑貨屋・みやげ物屋が、人ごみの中に立ち並んでいる。

おなかが空いていたので、我々は、そのうちの一軒に入ることにした。

店の入口には海産物が積まれ、ジュウジュウ・モクモクと美味しそうな香りが立ち込めている。席に着くと、抜け目無さそうな顔をしたボーイが、したり顔であれこれ説明してくれたが、何を言っているのか、さっぱりわからない。業をにやした我々は、入口近くの水槽の前で、あれこれと注文することになった。

僕は好物の大きなエビの炭火焼きを注文し、吉田君は味の冒険王らしく訳のわからない魚を注文している。

たぶんホシミゾイサキの一種であるが、形がちょっと違うような気がした。あとはメニューで頼むことになったが、実際運ばれてきたものは、我々の思っているものとは違うものであった。

それでもベースがトウガラシ系のスパイスと魚醤油なので、辛いのが好きな僕は、大いに喜んだ。

ホテルに帰り、ベランダでビンタンビールの酔いをさましていると、赤道とは思えない、涼しい風と、微かな花の香りが、昼の太陽の火照った体に心地よい。   

 

 

2日目は、トレバリーを狙うことにした。バドウン海峡を島沿いに北に40分ほど走らせると、ダイバーに人気のあるパタンバイという港町がある。そこの沖合に、直径1kmくらいの丸い小さな珊瑚礁があって、そのまわりがポイントらしい。波も島かげになるらしく、昨日と打って変わって穏やかだ。

ブルーフィンや、小型のGTを釣っていると、沖にべイトフィッシュのさざ波が見えた。

船長に言って近づいてもらってキャストすると、一投目、ドカンと100gのポッパーが呑み込まれてしまった。2分後、浮き上がったGTに奥山君がリリースギャフを打ってくれた。

魚を痛めないようにしながら撮るものは撮って、すぐにリリースした。

 

後はトレバリー名人の奥山君にまかせて、後ろのデッキに戻った。用意されているパッションフルーツやマンゴー・オレンジ等をほうばりながら、アグン山のふもとに湧いているという、冷えたミネラルウォーター“セーフ”を飲んだ。数年前、オーストラリアのリザードアイランドのカマリ号で見た、世界一丈夫なBigゲーム用ファイティングチェアーと同形の椅子の上で、ひと眠りすることにした。遠くにジュゴンというアウトリガーを付けた、小さなカヌーが、逆三角形の帆を張って ボニート(カツオ)曳きをしている。

海風は西オーストラリアから北上する寒流と、乾期のせいかとても冷やかで、渇き、気持ちが良い。

耳の奥で、昨夜松明の光の下で見た、ケチャックダンスのチャチャチャチャチチャ・・というリズムが鳴り始めた頃、僕はうたた寝をし始めた。