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サムネイル19回

水納島釣紀

 

多良間島から更に4km北上すると、人口7人、一家族の牧場の島、水納島がある。広大なリーフは、島の面積の5倍になるらしい。ぐるりと囲む珊瑚礁からは、あちこちにG.T.の好ポイントが見える。勝也船長はとあれこれ相談しながら、リーフエッジから深場にキャスティングを開始した。白砂浜には数十頭の黒牛の群れが現れた。

「あの手は最高においしいんだよ。」と船長。そういえば、フランスのノルマンディ地方の海岸べりの牛とか羊は、とてもおいしいという話を聞いたことがある。肉がかすかに

潮の香りがするらしい。

東風が吹き、天気は更に良くなってきた。勝也船長にたのんで、早朝に出航したかいがあった。途中、潮の速い海峡には、潮目のたっている所が数カ所あった。漁船が一艘近づいてきて、方言でなにやら話しだしたが、さっぱりわからない。石垣さんに聞いてみると、ルアーやリリースのことについて、話しているらしいということであった。この辺は、島ひとつ変われば、言葉も違うらしい。

 

キャスティングを繰り返していると、リーフエッジから少し離れた所に、10m四方程の平らな根が100m前方に、ぼんやりと見えた。石垣さんと左右のエンドをめがけて、二人であわせて投げることにした。クレイジースイマーの着水と同時に、後方から、勢い良く波をたてて、巨大なG.T.が近づいてくるのが見えた。一瞬ルアーを止めて、すばやく動かし始めると、水中で、ガッチリと押さえ込むようにヒットし、勢い良く水しぶきをあげて飛び出した。石垣さんは、ルアーを回収しようと、リーリングスピードを上げた瞬間、同じ根から飛び出た同サイズのG.T.が水柱をあげてヒットした。

 

「こっちも来たサ!!!」と石垣さんが叫んだが、僕もそれどころではない。2本のラインは、平行線のようにどんどん沖へ引きずり出されて行く。2人ともドラッグを上げて魚を止めようとしたが、大きすぎるのか、ずいぶんと手間取ってしまった。更に50mくらい、引き出された。ラインがかさならないように、お互いにコントロールして引き寄せ、5〜6分で、同時にランディングすることが、できた。始めに石垣さんのランディングをすると、船長は、「35kgは、あるよ。」 

続いて僕のをランディングした。  

「もっとでかい、40kgだ! ルアーってすごい釣りだね。」と大声で言いながら、魚にバケツで海水をどんどんかけてくれた。バーブレスフックをすばやくはずし、二人並んで記念撮影をし、すぐにリリースした。

「P.E.ラインてすごいね。新しいパワールアーフィッシングだね。」と石垣さんは、上気した顔で言った。僕もこのサイズをダブルヒットさせてダブルランディングできたのは、P.E.ラインの力が大きいと思った。

 

 

午後に入って、テラスのような広い浅瀬に入った。大きなウネリが、根の近くで崩れている。濃紺のルアーにきりかえて、2〜3投した時、マグロのような、イルカのような背中を持った魚が、ものすごいスピードでルアーに近づき、大きな口でルアーを呑み込もうとする時、目と目が合ってしまった。次の瞬間、魚は鋭く反転し、大きな水しぶきを残して消えてしまった。3人は、アゼンとして、言葉も出ない。沈黙が流れる。

「GTだったよね?」と僕が尋ねると、

「への字の口まで、はっきり見えた。」と石垣さん。

「長い間、ウミンチュ(漁師)やってるけど、あんなバケモノガーラは、見たことがない ここに昔からすごいのがいるという、話はあったのだが。・・・・」と船長。

僕は昨年見た、ヨナラ水道のバケモノG.T.“シャチ”のことを思い出した。島はそれぞれ主神みたいなG.T.がいて、ときたまこうやって顔を見せてくれるのかなと、考えたりもした。

その30分後、まず石垣さんが、2分のファイトの後、ラインブレーク。更に1時間後、今度は、僕が3分のファイト後、ラインブレークに追い込まれる魚がヒットした。いずれも根ズレであったが、すでに集中力が欠け始めている以上、釣りを続けることもあるまい「今日は、もう帰ります。」と船長に言って、多良間島に引き上げることにした。

次の日は低気圧の接近により、気温が下がり、風が吹き、大シケになったので、一日中、石垣さんとゴロゴロして、過ごした。島には5軒の民宿に近い旅館があり、僕等のお世話になった丸福旅館は、食事がおいしく早朝6時半に出発する我等のために、すでに6時には、あたたかいおみそ汁付きの朝食がとれた。お昼のにぎりめしもたっぷりと用意されていた。無口だけれど心やさしいおばさんに、感謝感激であった。