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サムネイル24回

黒潮源流の島から

与那国島釣紀2

石垣島から西に127kmのところに、国境の島、与那国島がある。

晴れた日には台湾が見えるらしく、石垣島に行くより台湾の方が2kmぐらい近い。中世において琉球の支配が及ぶ前に自由貿易をする独立小国の要素をもって、かなり栄えていたらしい。

その風潮は、戦後の一時にも現れ、闇貿易や、バーター貿易で与那国の人口は数倍に増えた。海側から見ると、黒潮の本流、源流部にあたり、南方よりかつて北上した文化や民族の南方海街道の日本の玄関口でもあった。そのせいか、独立心が強く、屈強にして我慢強い与那国独特の気質が生まれた。

 

石垣島から朝の便で島に着くと、民宿「ハイドナン」のオヤジがニコニコと出迎えてくれた。久部良港の前の川の流れ込みにパシフィックターポンが群れている。同行の桜田君と小さなスプーンやミノーを投げたが、ルアーを追うどころか逃げ回っているみたいで、ノーヒットに終わった。

「やっぱり、フライがいいのかなァ・・・」と桜田さんが首を傾げながら言う。実は僕等には、この魚へ特別な2年越しの思い入れがある。

「こんなドブ川にいちゃいけないよなァ・・・」と、彼はスイスイと泳ぎ回るターポンの群れを見ながら呟いた。

 

夜に金城船長の家に遊びに行くと、前日釣ったという50kgのGTの頭の上の肉の刺身と背骨の水炊き、大腸とゴーヤの炒め物が出された。ぼくの釣るはずだったGTが、こんな姿になっちゃって・・・と、少し目をシバシバさせたが、船長の話は続く。

「魚はね、皆が捨てちゃうような所が本当はウマイのヨ。ジャイアントトレバリーはキロ150円しかつかない。こんなに美味しい魚なのに。」と船長は少し怒った顔でぼくを見た。ぼくはクースという島唐辛子入りのすり身を醤油皿にドバッと入れてGTの刺身を一切れ口に入れた。

「港でさばいた後、大腸はネ、コンクリートの上でよくこすって、アクをとる。それを海水で茹でて、千切りにしてゴーヤと炒めると旨い。」と話は続く。船長は背骨から綺麗に肉や軟骨をそぎ取るように食べ、、白い硬骨だけを捨て皿に置いた。ぼくは無駄なくすっかり食べることが、本当に自然を大切にする方法の一つだと改めて思ったが、言葉にはならなかった。なぜなら、彼らにとって日常であり、当たり前のことだからだ。

 

港から20分ぐらいゆっくりとトローリングしながら、走った所にパヤオがある。カジキ1本釣り漁師は、ここでエサのカツオを調達し、鼻にハリをかけて大きく回し、島ににじり寄りながら、カジキを釣る。

カジキを釣ると急いで港に帰るわけである。そこにはカツオ、シイラ、キメジがもう一杯いて、これをライトアクションのロッドで狙うと止められなくなるぐらいおもしろい。

ぼくは、OCEAN68LというショートロッドにPE3号をビミニツイストで40cmほどダブルラインにし、ショックリーダーに15号を1.5mという簡単なシステムにクレイジースイマー7という小さいなポッパーを付けて投げると、一投目に1m位のシイラが勢いよく飛びついた。

飛んだり跳ねたりしながら5分ほどでランディング。その後もカツオやキメジが休む間もなくヒットした。モデラートアクションのこのロッドは、魚へのルアーの絡みも良く、はじかない。

バット部の強力なトルクでグイグイと魚を寄せてしまう。そのうちOCEAN68lLに強烈なアタリがあって、どんどんラインが出された。

遠くで、三角形の背びれが水を切りながら逆光の中で一瞬見えた。小さなカジキかサメに違いないが、まだ、はっきりしない。

魚は潜り、一進一退のスリリングな時間が10分程続いたが勝負はついた。1m50cm、158kgのサメであった。

リリースギャフを口に打って、ランディングして記念写真をパチリ。

「サメがルアーで釣れるんだね。」と驚く船長。

「前にミノーで一度、これで2度目。結構、力があるから面白いね。」とぼく。

そのうち、エサを付けて後ろで流してあったGIANT86に強烈なアタリがきた。

桜田君が丁度、船酔い気味だったので、酔い止めに一発、20kgのサワラ。

「酔いは治った?」と聞くと、

「これが一番だね、フゥ・・・!?」と大きな魚を前に信じられない顔をして、溜息混じりで答えた。

 

昼に港に入り、丘に上がった所にある「ゆきちゃんち」というカレー屋に行くと、何匹かのネコや犬が無防備な格好で寝ていた。それがなんともユーモラスに思われ、写真をパチリ。赤瓦の琉球の古屋をそのままぶちぬいたような店の中から、垣根の赤いハイビスカスの花、久部良の明るい海、西崎の断崖がぼくの目に入ってきた。

夕方近く、沖のハエガマ(南釜)という金城船長の丸秘ポイントに入った。300gのジグを30mほどキャストし、水深80mの底をとる。

ラインは潮に持って行かれるせいか、150m近くでてしまうが、PEだとコトリと底に着いたのがわかる。

「ルアーは投げて釣るんだよね。」と桜田君があらためて言った。

 

 

1/3位巻いた時に、ググッ、ガツガツという鮮明なアタリがあった。鋭く5〜6回あわせてフックアップ。10mほど走らせて、ドラグを締め込むと、エラを大きく広げて頭をグリグリと振っているのがわかる。もう一度、鋭くカウンターパンチのようにロッドをあおると、魚は大人しくなった。顔をこちらに向けさせて、主導権を奪ってしまえば、あとは素早くラインを巻け取れば良い。3分ほどで魚は浮き上がった。

17〜18kgだね。すぐにルアーを投げてね。」と船長。

2投目、やはり同じ棚でヒット。今度は走らせずに、そのまま引きずり上げて2分。17kg。

3投目、やはり同じ棚でドカン。18kg。

3投連続イソマグロ。いいもの見せてもらいました。」と呆れ顔の桜田君。

「もう1回投げれば、50〜60kgのが来るかもしれない。」と船長。

ぼくも、その気になってヨイショ!と300gのジグをキャストし続けた。

日本の南西の外れのこの島に、暗闇が近付いていた。雄大な黒潮は沸き立ち、うねり、更に黒さを増した。10月の初めでがあるが、南風はかすかな、しかし、鮮明な心地よさを運んでくれた。