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サムネイル42回

ハワイ島釣紀2

アンバージャック天国の島から

 

紀元前に熱帯アジアから漕ぎだした海の民は、ミンダナオ島を経て、パラオ諸島で文化の拠点を作りつつ、さらに東のミクロネシアの島々へと広まってゆく。また一つは、パラワン島からルソン島の西を通り、琉球列島を経て、黒潮、対馬海流に乗って一気に北上し、日本に至った。

さらにもう一つがニューギニアからフィジーと、先住民と混血を繰り返しながら、タヒチ、マルケサスに至り、さらに大型のアウトリガー付き外用型カヌーでハワイ島に至ったのである。
彼らは、満天の夜空の星を利用した星座航海術を使い、天・海・地の神々と共に数千年にわたり、太平洋の島々に拡がっていったに違いない。その最終地点がガラパゴスであり、日本であり、ハワイ諸島なのである。

 

2日日の朝は、8時にハーバーのクラブハウスの2Fにある、伊沢さんの事務所に入った。船長のスタンレーは、すでにボートを桟橋に着けてスタンバイしている。伊沢さんが前日釣ったカンパチが、ロッドとリールで釣られたハワイ島の記録魚であることを確認してくれていた。
 午前中、前夕と同じポイントに入り、300gのジグを落とす。ゴツゴツとした溶岩に根掛かりしてしまうので、底を慎重にとる。
 魚探はファトム(ひろ)なので、単純に1.8倍するとメーターに直る。つまり100 ファトムで180mということである。ポイントは、頭が120ファトムで底が140ファトムの断崖が屏風状に繋がっているらしい。
 すぐにモンスターという5.6ftのショートロッドとハイスピードスピニングリールのコンビネーションによるショートジャークを始めると、30Lb級がヒットし、5投連続でアンバージャック(カンパチやヒレナガカンパチ)が釣り上がった。平山さんは60Lbのカンパチを一発で決めて、6分ほどのファイトでボートの上に上げてしまった。
 午前11時頃になると、あれほど食いが立っていた魚が、ぴたりとナリをひそめてしまう。茶を飲んだりしながら平山さんと四方山話をしていると、スタンレーが
「ビルフィッシュ、ビルフィッシュ」と叫ぶものだから前を見ると、背びれと尾びれを出しながら、ゆっくりと巨大な魚が泳いで行くのが見えた。すぐに手に持っていたモンスターで300gのジグをフルキャストすると、60m先のカジキの目の前に落ちたが驚いて潜ってしまった。

 

 

「コントロールが良すぎるね」と平山さんが笑った。やる気の無いヤツである。
昼食をとって一眠りして、さあ始めようとした時、ザトウクジラの群れがボートのまわりに寄ってきた。バシャンドボンとホエールウォッチャーには涙の出る風景を繰り返すが、釣り師にとっては有難迷惑である。
案の定、スタンレーが両手を広げて、首をすぼめて言う。
「大きな魚、ニゲチャウヨー!」とハワイなまりのイントネーションの日本語である。
日系3世のスタンレーは夏の2ヶ月間はアラスカに避暑に行くものの、あとはハワイの海で過ごしているせいか60を越えているとは思えない若々しさである。

 

 

 

 

 

僕の使っているショートロッドと、ギア比が1:5.7のハイスピードのスピニングリール、ステラ10000Hの組み合わせでは、ベイトで3回巻いて1回しゃくるといった高度なテクニック?も、2回ないし1回巻いて1回しゃくるという、いたって簡単な誰にでもできるテクニックで、ベイトよりもハイスピードなショートジャークになってしまうのである。それに時々ストッピングを加えると、さらにヒット率は高くなった。
フットワークの良いスピードに乗ったジグの動きは、今までのようなスレ掛かりを少なくしているのであろう。

3時を回った頃から、またバタバタとヒットが続く。
「スピニングのジグは、なんか楽チンだね」と平山さんが言う。
「これにね、リールをダブルハンドにして、左右を変えながら巻くともっと楽チンだよ。」と話は続く。

実際、彼のスピニングリールには、左右にハンドルが付いているのである。
カジキ狙いで出ていたクルーザーが、少しずつハーバーに戻りだしている。
「もう一尾釣れたら終わりだね。」と僕はスタンレーに言うと、黙ってニコニコとうなずいている。結局その日だけで二人で20尾以上のアンバージャックを釣り上げることになった。

 

夕方、コナのマリーナに帰ると、伊沢さんが桟橋で出迎えてくれた。タックルを水洗いした後、事務所で一服していると、夕陽がコナの海に沈みかけている。
「この窓からが一番美しいですよ。」と伊沢さんが西のはずれの窓を教えてくれた。僕は写真を1枚パチリ。

ハーバーは、茶橙色のもやの中に包み込まれていた。多くの釣り師の物語を作り上げてきたビルフィッシャーのクルーザー達は、沈黙し微動だにしないけれど、明日のジーン・グレー、アーネスト・へミングウェイのために、心の英雄とならん釣り師のために、グレートコナの海に浮かんでいるのである。
窓の下で、ボートの整備を終えたスタンレーが、手を振っている。
「シー ユー アゲイン、トゥモロー モーニング!」と彼は大声で叫んだ。

 

 

 

 

活躍したタックル

ロッド モンスター5.6ft  B.G.OCEAN 6.51ft
ライン モーリス10×10 5号 200m+3号100m
ショックリーダー モーリス・フロロカーボン30号(プロトタイプ)

リール シマノ・ステラ10000H バンスタールVS300 EXi6000
ジグ バスディ・スーパーディープ300g

取材協力

日本航空/ヒルトンワイコロアビレッジ