トップページへimg

サムネイル5回

月夜の遊び

久し振りに、イカ餌木作りの名人の山本善幸さんとイカ釣りに行こうということになった。自宅に着くと、70才とは思えないほどガッシリとした背筋のピンとしたイカツイ山本さんと、その近くに若い時代はかなり美人だったと思われる小柄な奥さんが、ニコニコしながら魔法瓶とお弁当を持って、2人で並んで立っていた。老いて益々仲の良い夫婦である。

30分ほど車を走らせると、島の西端「御神崎」の灯台が見える。その横に、小さな浜があって到着すると、ちょうど西表島に夕陽が沈むのが見えた。折りたたみボートを広げ、組み立てて櫓を漕ぎ出す。白い砂浜から離れても、穏やかなリーフが広がっていて、水深も1〜2mと浅い。10分もしないうちに灯台の光がくるくると回り始めた。

 

すぐに1杯目のアタリがきた。名人はサオをイカの方に一度向けてから、大きく前の方にサオをしゃくった。サオはぐんぐんとしなって、後方でブシューという墨を吐く音がした。ホイホイと言いながら山本さんは、糸を手繰ると、見事な白イカが寄ってきた。胴と頭の間をわしづかみにして、小指でお腹をくすぐると、たまらずイカは海に向かって墨を吐いた。

再び餌木を後方に投げ、片手で櫓を漕ぎ出す。月を仰いで角度を見たり、雲が月にかかると、すかさずカラフルな餌木を次から次へと選んで変えていく。

「満月の夜はヨ、イカはリーフの中に入ってくるサ。」

「月を見て、雲を見て、イカ餌木の時刻がピッタリ合うとヨ、イカも興奮して上がってくるが、ちょっとでも時刻が外れると、イカも白いままかかってくるようになり、やがて釣れなくなる。」

「昔、キビ刈りの日当が1ドルだった頃、旦那衆の漕ぎ手で行くとヨ、1ドルくれた。2ドル持って帰ると、カアチャンが喜んでヨ・・・」と、話は続いた。

 

また1杯釣れた。

「今は、みんなエンジンつけて、楽して釣るが、昔はみんなで櫓で漕いだものサ。風が吹くとキツイが、音がしないしゆっくり引けるのもイカビキには一番」

海の向こうに、満月の光に照らされて、西表島がぼんやり見える、時折、リーフエッジにうねりが砕けるが、風はそよそよと気持ちが良い。

「小さい頃、与那国島にいて、カツオの疑似を作ったり、マグロの疑似を作ったり、それがヨ、よく釣れると嬉しかったサ。」

今度は、ぼくのサオが曲がった。