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サムネイル73回

久米島釣紀

キハダマグロの楽園

 

離島の新空港
久米島のようにジェット機とプロペラ機(双発)が乗り入れているなら、一度はプロペラで、島に渡るのが良い。那覇−久米島間は、ジェット機で30分、それにたった5分加えるだけで、海面に近い高度をゆっくりと飛んでくれるのである。

琉球エアーコミューター(RAC)の新機種双発のDHC8(38名乗り)は、久米島に近づいたらしい。光が波にあたってキラキラと乱反射し、風の流れさえも輝いて見える。スウガマと呼ばれる屏風状の瀬のパヤオで4〜5艘の漁船が釣りをしている。
次に、はての浜と呼ばれる、真っ白に輝く長い砂浜が軌道に沿って現れた。7 kmに及ぶ砂州もクリアーなライトブルーの浅瀬に消えると小さなオーハ島、6角結晶安山岩の畳石のある奥武島、そして久米島の最高峰、守江城岳(310m)を回りこんでから、飛行機は長い滑走路に滑り込んで直ぐに止まった。
エンジン音がトーンを下げると途端にクーラーの利きが悪くなったが、プロペラが止まると、すぐにタラップから外に出ることができた。真新しい空港は、なんとなく白々しいけれど、離島に住む人々には、港と並ぶ島の玄関なのである。久米島は2年前に長い滑走路やターミナルを持つ新空港ができた。新空港は長くなった滑走路のおかげで東京からは4〜10 月に限っての直行便が飛んでくる。

那覇からはJTAのボーイング737が日に5便あって観光客にはとても便利になった。

 

沖縄はプロペラ機の天国
りっぱなターミナルの2階レストランでしばらく待っていると、姫路の海のルアーショップ、「シーマン」の店長山本カツオ君が現れた。
「待ちました? 僕らは違う便で来たみたいですね」とにこにこ笑っている。
「僕はプロペラ」と言わずに、「そんなに待たなかったよ」と言って黙り込んだ。
「釣り人は、プロペラ機に乗ってポイントを上空からチェックすることが必要なんだよ」と言いたかったけれど言葉にはならなかった。
このカナダ製のDHC8は、南北大東島に長く使われてきた小型のDHC6(19名乗り)に代わって1昨年から就航した中型のプロペラ機である。プロペラ機に乗ると低い高度でゆっくり飛ぶので、那覇からケラマや久米島のポイントの海底地形をつぶさに見ることができる。ちなみにDHC6は石垣から多良間、石垣から波照間島を飛んでいるが、石垣島から与那国島を飛んでいたYS11は、今年7月にB 737に変わってしまった。
与那国の人に言わせると、口をそろえて、かえって不便になったという。飛行機は大きくなったけれど、小さなYS11 が、日に2便飛んでいたのが、1便に減ったからである。久米島も便数が半分に減らされたことは同様である。今でも沖縄はプロペラ機の天国に違いないが、どんどんと飛行機が大型化されるのは、ぼくのようなプロペラファンにとってはさびしいのである。

 

西の遠いパヤオ
翌朝早く、西のはずれのパヤオに向かった。
「このパヤオが一番遠くて大きなキハダが入るんです」と山本君が説明してくれた。

彼はこのところ1月に1回のペースで久米島に通っているらしい。
海はそんなに波は高くないけれど、向かい潮なのでしぶきがずいぶんとかかり始めた。波をかぶりながら2時間半かけて浮き漁礁のパヤオについた。
パヤオというのは、ご存知の方も多いと思うが、一通り説明すると、水深が1000 m前後の、潮通しの良いところにアンカーを打って、海面までロープを伸ばして大きなウキを付ける。簡単に言えば、それに小魚が付いてそれを狙って中魚、大魚が付く。魚は、カツオ、シイラ、マグロにカジキと南系回遊魚が多い。
久米島のこの南西瑞のパヤオは、よくキハダマグロがやって来ることで有名であるらしい。今日は風と潮が同調していて、パヤオブイの近くが渦を巻きながら流れていた。
黒潮の源流は、フィリピン、ルソン島の東、フィリピン海溝あたりで、折れ曲がって北上する北赤道海流である。この見事に透き通った流れは、日本の南西端、与那国島辺りの大陸棚にぶち当たり、栄養たっぷりの深海水を押し上げながら尚も北上して久米島に至る。キハダはこの流れに乗って、春から夏、秋と群れでやって来る。4月ごろは小さいけれど7月ごろ20kgを超え、さらに50〜60kgの大キハダも来る。

 

ジグ屋はシャクリ屋
僕たちはひたすらジグをシャクり始めた。5〜10kgキハダや中型のカツオがかかるけれど大型はなかなかヒットしない。
「潮が悪いね。午後にはよくなるはず」安村船長はすこぶる余裕がある。
それでもやることがないから、みんなでシャクりにシャクった。
ジグをやっていると、シャクることに、麻痺してまるで機械のようにどんどんと繰り返してしまう。

釣れればめっけもんとばかり、見えない大魚に心を踊らせて、シャクリを繰り返すのである。
潮が悪いときのパヤオはみじめなものである。ひたすら潮がよくなるのを待つことになるわけだけれど、やることもないので結局ジグをシャクる。
「シャクってシャクって、またシャクるジグ屋さんは大変ですねェ」と山本君。
「釣れない時があるから、釣れる時があるってね。シャクって、シャクって、ジグ屋はシャクリ屋でないと釣れないからねェ」と僕。

 

 

 

 

 

北村秀行さんとの再会
周りにボートが、初め一隻もいなかったので不安だったけれど、そのうち、1 艘近づいてきて船首でロングロッドを煽っているアングラーが見えた。北村秀行さんである。独特の長いストロークできっちりとしたシャクリのリズムがある。

波に体をまかせながら、船がかなり動いているにもかかわらず、ほとんど体の軸が動いていない。さすがである。
一瞬近づいてきた時に手を振ると、北村さんも気がついたらしく手を上げてくれた。僕は時々彼の店、東京新宿2丁目の「ソッカイ」に、顔を出すにだけになってしまったけれど、付き合いはもう10 年以上になる。「ブンちゃん、かんばっているねェー」と、にこりと笑う顔に何度、救われただろうと思う。
ずいぶん前の話であるが、JGFAパラオ調査団で、同じポートで、北村さん、上屋敷君、若林さん、そして僕と、今考えると妙に色っぼいメンバーで、バラオ諸島カヤンゲル島でジギングをしたことがあった。

サメまたサメでヒットアンドブレークと、散々なことになって、パラオのホテルに戻ると、自然保護団体の白人の先生方に、「サメが少なくなったので、どうしたら良いだろうか?」と聞かれ、答えに困ったことがある。
その時JGFAきっての知恵者、若林さんがなんと言って答えたかは聞いていなかったけれど、北村さんとビールをグイと飲んで黙り込んだことを思い出す。僕は、「森をいじめるからだよ」と言いたかったけれど、先生方は、釣りの規制の話を切り出そうと躍起だったに違いない。
パラオのような南海島は、森から流れ山すミネラルが豊かな水が海草や珊瑚を育てる。そこにプランクトンが適量発生して、小魚の大群が生まれる。それを狙って中型魚・大型魚が寄りだす。

サメは回遊魚が大好物であるから、回遊魚が寄りだすと、回遊魚ばかりを食べる。ところが、森を切って畑に変えると、無機鉄の多い赤土が大量に海に流れ出す。すると珊瑚も海草も死滅し、食物連鎖の輪を失った生態系は、たちまち崩れていく。
回遊魚が島に近づかなくなると、サメは居つきの大型魚・中型魚を狙い出す。釣り人からは一見サメが大量に発生したように見えるが、ダイバーの先生方から見れば、サメの絶対数は減っているということになる、と僕は考える。

 

キハダ現る
午後に入って船長の勧めもあって、ジグを諦エサのキビナゴを流し始めた。
1時間ほどすると「潮、よくなってきているよ。そろそろ釣れだすはず」と船長がぽつりと言った。
それから10分後6名のロッドの内、4本が次々とヒットした。

仕掛けを説明すると、イシダイバリでキビナゴの目を通して、腹にかける、1匹掛けである。

ショックリーダーというより、ハリスは、80Lbのクリアーのナイロン。僕はキハダを狙うときは、PEラインは50〜60Lbナイロンを20m近く使う。これは、ナイロンのクッションを入れることによって長時間のファイトをやりやすくするためと、ロッドにダイレクトにキハダの魚信が伝わりすぎるのを防ぐためである。 ラインを流してドラグをゆるゆるにして、ひたすた待っているのである。ロッドホルダーに立てておいてもよいし、自分で持っていてもよい。そのうちジーとラインが飛び出したら、5〜6秒ぐらいラインを送ってから、ドラグを絞め込む。キハダは、ラインを出しながら真っ直ぐに真下に潜ってから、一度止まる。

すかさず巻きに巻いて次の走りに備える。行ったり来たりさせて、取り込むわけである。
僕は、モンスターCCのテストを兼ねているからして、ドラグをかなり上げて釣り上げる。20sのものなら1尾5〜6分で釣り上げた。立て続けに僕は3本釣ったけれど、20s程度のキハダにはあまり興奮しない。船全体で20s級が9本釣れて、その日は全員満足である。

 

 

久米島のGT
2日目は、GTを、久米島周りで狙うことにした。トンバラ岩周りで、けっこうみんな熱くなったけれど、不発。
島近くに戻ってチャンネルを攻めると、空港沖にベイトの群れが見えた。ボートをゆっくり近づけてキャスト、1投目に、水柱が上がり、10sぐらいのGTが釣れた。もう一度新しいベイトにキャストすると、今度は巨大なGTがバイトした。ジーとリールからサウンド音が鳴り響いたけれど、すぐにはずれた。
「で、でかかったですよね」カツオくんが笑う。
「ルアーもうぐちゃぐちゃです」と僕。
ドンと鈍い出方のGTは、かなりでかい。トカラ用に開発した巨大なポッピングルアーはここでも通用するのだと思うと、嬉しくなった。

 

釣り師の宴会
船長も含めて、毎晩宴会が開かれた。釣り人が集まると、酒の量と手の幅は比例するらしく、まことしやかな話が次々と出てくる。僕ももちろん負けじと話すわけだが、酒には余り強くないので、手の幅もしめりがちになるのである。
「大きい魚、釣りたいね」と山本カツオくんに言ったら、「よっしゃー、まかしておけ!!」とおおらかな関西弁がかえってきた。
10年前に新婚旅行が石垣島だった縁で彼とのつき合いは、今日まで続いている。気立ての良い奥さんと、3人の子供に恵まれていたが、釣りキチが高じて、海専門のルアーショップ「シーマン」を昨年の9月に、姫路に開店させた。
「好きこそ物の上手なれ」と言うけれど、「下手の横好き」とも言う。彼は前者である。もともと、シーバスを中心にルアーをやっていたが、僕との出会いがジギングGTに目覚めさせたらしい。
ここ何年かは、毎週のように釣行を繰り返し、実力で言えば関西屈指のアングラーと言ってよい。
「50s釣れたら電話ください」と飛行場で船長に頼んで帰った。
石垣島に帰って、次の日船長から電話が入った。
「今日60sが釣れたよ。GIANTで2時間かかったけれどね。明日来ない?」
本当は、すぐに飛んでいきたいのだけれど、沼津でサットウを釣る約束があったので、結局行くことができなかった。またひとつ、通う島が増えてしまったな、と思った。

 

活躍したタックル

ロッド MONSTER CC  YELLOWTAILver

リール ステラ16000

ライン モーリス アヴァニ50Lb  10x10 60Lb

ルアー S-POP120  CRAZY LONG JIG170g