トップページへimg

サムネイル82回

沖縄北部海域の島々 後編

サミットと沖縄

 

友人のバスプロ田辺哲男さんが。5月の半ばぐらいに米国から一時帰国するという連絡が入った。

ちょうど、2回目の沖縄本島北部海域の調査を万座ビーチホテルのレジャーディスクに依頼されていたので一緒に行くことになった。

ぼくは、6月の中旬、荒れるトカラ列島で100〜300kgのマッチョなサメに3回連続で鍛えられてから、1度石垣に戻って6月26日に那覇に入った。

夕方の那覇空港は、1000名以上の礼服の警察官でごった返していた。

7月20日から開かれる沖縄サミット警護のための動員であるけれど、その数はちょっと異様なほどである。

迎えに来てくれたガイドの伊藤君の車で、那覇市内に入ると、他府県警察のねずみ色のバスが道を埋め尽くしている。

全体の動員数はかなりの人数らしく、約700億のサミット総予算の半分、320億を警備に使うらしい。前回のドイツで開かれたケルンサミットの総予算が約7億円であるから、100倍の予算ということになる。

真夏の炎天下で立ち尽くすのであるから現場の警察官は大変である。

素直に「ご苦労様です」と言いたい。

本島の沿岸部を含めた島全体を調べてから安全を管理するローラー作戦をとるのだから当然の方式である。

しかし、警護のための警護にこれだけの警察官を動員し、一体何からサミットの参加者を守ろうとしているのかと考えると、ぼくには明確な答えが見出せない。

むしろ、県民にとっては沖縄で日常のように多発する米兵による交通事故や刑事事件の方がおっかないわけで、サミット期間中だけ無事に過ごせば良いと言う考えの方がおかしい。

いくらグローバルな考えを並べたところで、島の半分近くを他国のアメリカ軍基地が占有している沖縄の現状が異常なのである。できれば、これを機会に沖縄の抱える基地問題が議論されて、根本的な解決の糸口が見つかって欲しいと思う。

 

 

 

 

 

ブラックバスと自然

8時頃にホテルに着き、昼過ぎに東京から既に到着していた田辺さんと合流した。

「ぼくが海をやることで、日本のバスで育ったバスマンがソルトの素晴らしさに目が向くといいよね」と田辺さん。

「トップでは、バスもGTも同じ感覚で見ることが出来るし、ルアーがかなり大きくなっても、シビアなポイントの攻め方は同じですよね」とぼく。

「日本国内のバスは、だんだんと釣れなくなってきているけれど、経済的に優れた側面を持っているブラックバスをもう一度考える時期にきているんじゃないかなぁー」と、ブラックバスの日本国内での位置を高めようという意見を聞いた。

日本の自然界に存在しなかったこの魚は、一部の釣り人のエゴによって日本国内に広まっていった。

その結果、湖や沼や川の循環生態系の頂点部に変化がおこり、在来魚の中には絶滅の危険をはらむ魚まで出てきている。それだけ、このブラックバスという魚は環境への順応性があり、繁殖性が強い肉食魚なのである。そして、北海道の一部と石垣島などの離島を除く全国に生息し始めた。

すでに至る所に生息しているから仕方が無いという「なし崩し的」のようなバスフィッシャーマンにとっては都合の良い考え方は、現在においては通用しない。

湖・沼・池・河川が人工か自然か、流れ込みや流れ出しが有るか無いかなど具体的に細かい状況を判断しながら、在来魚とブラックバスとの棲み分けや共存の地理的区分けをしなければならない時期に来ている。そうしない限り、ゲリラ放流は続くだろうし、だからといって人工で作られた閉塞野池まで排除する必要はない。

護岸、干潟の埋め立て、森林伐採など、複合的要素が水辺の生態系を破壊している現状を踏まえ、ブラックバスだけのせいにせずに田辺さんの言う経済的側面を考慮し、相互の妥協点を見出すべきであろう。

 

 

 

 

 

硫黄鳥島が見えた曽根

前日までの土砂降りが嘘のように晴れ上がった。9時に万座を出港して、4時間かけて伊平屋島の北方30マイルにある伊平屋曽根に向かった。

水深130m、直径1マイルの根にはカンパチが回遊しているらしい。

遠くに硫黄鳥島が見えて、ぼくなどは、どうもそっちの方に気を取られてしまう。

30分ぐらい魚探で探るけれど、魚影が映らないらしい。

船長が少し困って相談に来たので、ぼくは直ぐに諦めた。

「気配が無いときは釣れない」

どんなに良いポイントでも、潮の動きが無く魚影が無い以上、長居は無用である。

すぐに南に進路を変え、伊平屋島へボートを進めた。1時間ほどで田名岬に着くと、風と潮が同じ方向に動いていて、風が強い割には凪いでいる。

2つの離れ岩は、潮といい、波といい、ルアーを投げれば直ぐにGTが飛び出しそうである。

ところが、引き縄の海人がこの岩ギリギリにトローリングをしていて、移動する気配が無い。

とうとう、引き網のルアーを岩に引っ掛けてしまった。2時間ほどジグをしながら待ったけれど、諦めて伊是名島の港に向かった。

 

朝の田名岬

早朝、田名岬に向かう。

岩の間から、白いサラシが伸びている。昨日の夕方とは潮が逆に流れていて、浅瀬の辺りは段がつくほど速い。風下から潮を計算に入れながらエンジンを切って近づく。

多分、サラシの中にはカスミアジがいるはずなのであるのだから、カズミアジがヒットしないように白い流れの縁を丹念に探る。何投目かに、岩に流れが当たり真正面に来るものを感じた。ぼくは、GTの気配を感じた。

水深5mの所に沈み岩が2箇所見える。その縁はドロップオフやスリットろしてからの戦略を考えながら1投目を投げる。

岩の際にルアーはぶつかるように落ちた。沈み岩の潮上をスリットに沿ってゆっくりと動かす。

影が溝の暗がりから鋭く飛び出し、ルアーの後ろまで来たけれど、ためらうように減速した。ロングペンをシェークしながらショートパンピングする。魚はたまらず浅いバイトを繰り返したが、鋭くあわせることは禁物である。わざとあわさず、魚がルアーにじゃれつく様に、縦の小刻みな動きを与える。さらに軽い2回のバイトが続いてから、後部のフックに魚がうまく絡んだみたいで、体をくねらせて潜った。

ぼくは、ルアーがまとわりつく様にラインを緩めてから鋭くあわせた。

ラインが10mほど出たところで、ぼくは意識的に止めた。幅4mほどのスリット中央にラインの先が伸び、既に魚は見えないが、身体をブルブルと震わせてから、ボートの方に潜りながら向かってきた。

ボートは風と潮に流され、ラインは岩の縁に擦れる位置に向かっている。

ロッドを立てながら、ブランク自体のリフティングに任せると、トップがゆっくりと上がり始めた。魚の頭が海面の方を向いたみたいで、あまり魚にプレッシャーを掛けずにラインはリールに収まりだした。そのまま、ボートの真下まで泳がせて、ポンピングに入る。何回か5〜6mラインは出されたけれど、既に水深は50mを超えている。ヒットから4分ほどでGTはボート際に浮いた。

 

ランディングと若いクルー

 ところが、伊藤君が口にリリースギャフを打とうとしたけれど、どうも上手くいかない。クルーの鈴木大介君がネットを持ち出してアシストする。そのうち、ネットがロングペンのフックに掛かった。リリースギャフとネットで2人は何とかランディングを試みるのだが、GTは反って暴れだし、とうとう逃げてしまった。

「すみません。ランディング出来なくて」と、2人はすっかりしょげている。

「写真とビデオカメラには、ちゃんと浮いたところを撮っているし、キャッチ&リリースw基本としているから、ショックリーダーを誰かが握った時点で、GTは釣り上げられたことになっている。みんな、そうやってランディングが上手くなっていくのだから、気にしなくて良いよ」と言うと、若い2人は、ホッとした顔に戻った。

「ところで、今の何kgぐらいあったかな?」

25kg前後だと思います」と、伊藤君が答えてくれたので、25kgということにした。

GTは何kg

GTを秤で量るボートもあるし、目測でキャプテンかクルーが言うボートもある。秤で量ったほうが後腐れないのだけれど、ボートの上で量ったところで正確な数字にはならない。少し多めだろうが、少なめだろうが目測で何kgと船長あるいはガイドに言われたほうが、夢があるような気がする。

ぼくも、目測には自信がある方であるが、GTが釣れた時に、自分では30kgと思っても船長が35kgと言えば35kgにする。逆に、50kgと思っても、40kgと言われれば40kgにする。

とまあ、釣り人で乗ったときは、魚の重さはほとんど人任せにする。数字にこだわっている諸氏には納得がいかないと思うが、もし、きちんと量るなら殺して陸の上で量る以外、正確な数字はでない。

ゆれるボートの上で魚を量るのは日本以外では見たことが無い。

「何kgだっていいじゃないか。どうせ海の中では浮力があって魚の重さと浮力で+-ゼロなのだから」

と、ぼくはそう言いたいのだが、かなりの人にお叱りをうけそうである。

GTのダブルヒット

伊平屋島の港の前に水深15m、直径1kmぐらいの根がある。ベイトが所々に浮いていて、潮はゆっくりと流れている。田辺さんと2人でボートのエンジンを止めて、風と潮に任せてのんびりと投げていると、小さな岩がポッコリと見える。その周りに、ベイトが小さなさざなみをたてている。

2人のルアーが同時に落ちて、手前に落ちた田辺さんのルアーがベイトの中に落ちた。水柱がドカンとたって、ロッドが弓なりに曲がり始めた。

今度はぼくのルアーにGTが体半分を水面に浮かせて、尾びれで白い水飛沫をあげた。40kgサイズである。

すぐにドラグを緩め、上手く外して回避しようとしたけれど、再び興奮GTがバイトしたルアーが消し飛んだ。魚を潜らせてから、体の向きが変わったところでルアーを口の中から引き抜く。

素早く巻いて、水中からルアーを回収した。巨大なGTは、それでも諦めきれずにボート際までやって来た。2〜3秒うろうろしてから、青い海底に消えた。つまり、この大きいサイズのダブルヒットは、浅い瀬の上では2本同時にファイトするのは無理であるとぼくが判断したからである。

 

友人のGT

田辺さんのロッドが曲りっぱなしになってから10分がたった。魚に引きずられる形でボートは深みに移動して行く。

時々、田辺さんはポンピングを試みるのだけれど、逆にラインがジリジリと出されていく。長時間の闘いになる様相を示し出した。水深はさらに増し、100m近くなった。体力を温存するために、田辺さんはドラグを少し緩めて自分に合わせ、再びファイトに入った。20分が経った。相変わらず60mの所で、GTは同じ水深を保ちながら泳いでいる。

ロッドは満月になりっぱなしである。こうなると魚の“こん”が尽きるまでどうにもならない。

40分が経ったとき、魚の頭が上に向いた。田辺さんは、それを見逃さず、リフティングに入った。50分後、GTは浮いた。ぼくはショックリーダーを握り、伊藤君のネットの中に誘導した。見事な黒いGTである。

「凄いですよ。30kgは超えています」と、伊藤君。

「ヒンガーガーラで力の強いやつですよ。見事ですねェ、このサイズ。一番元気が良いです」と、ぼく。

「やぁ、日本国内で大きいGTを釣ったのは初めてなんです。とっても嬉しいですよ」田辺さんは喜んだ。今までの田辺さんのGTへの努力が国内で報われたと思うと嬉しかった。午後3時、ぼくは少し早いけれど、よいGTが1尾釣れたので、ホテルに帰ることにした。「鈴木さん、もういいんですか?」

「まあ、いい魚が1尾釣れたのだから、ぼくは大満足ですよ」

「じゃ、帰って皆でビールで乾杯しましょう」というわけである。

GTフィッシングは、時として自分が釣るより、友人が釣れたほうが嬉しい場合がある不思議な釣りである。

夜、御世話になった万座ビーチホテルのクルーやガイドサービスのオーバージョイの面々、それに釣りビジョンの撮影隊が加わり、夜遅くまでわいわいと騒いだ。翌朝5時、ぼくは再びスピニングで大魚を狙うために与那国島へ向かった。

 

活躍したタックル

ロッド FISHERMAN MONSTER CC  GT.MONSTER      TIFA ISLAND80

ルアー ロングペン100  S-POP120  BIG HEAD