85回
クリスマス島釣紀 “世界一早く21世紀になる島のGT”
島は今日も北東の風、晴れ 午前5時30分、風雨がヤシの木にあたり、バサバサという音で目が覚めた。 「スコールみたいですね。」と同部屋の山田隆君が窓の外を覗きこむ。 激しい雨は、ホテルのライトアップの向こうで、クリスマス島の粗い白砂を弾き飛ばして、軽やかな舞を演出している。 雷雨は続かず、15分もしない内に、一気に抜ける空が広がり出した。 ブラックブルーの天に明るい1等星が見えたけれど、赤道の夜明けは呆気なく、朝のグレーピンクの天に変えていく。気が付くと雨は嘘のように上がり、雨雲だけが強烈なオレンジのワタとなって南に遠ざかって行った。 「また、今日も風は北東です。これで1日良い天気ですね。」と、山田君はそそくさ釣りの荷物を持って食堂に向かった。 赤道近くの島々は、この北東のトレードウインド(貿易風)が一年中吹く。朝夕は毎秒、6〜7m、昼は8〜9mと少々強くなるものの、釣りがキャンセルになる事は、滅多にないらしい。実際、ぼくが今まで釣の出来なかった日は無い。 |
写真左:入国を待つ筆者 写真右:機中から見えるクリスマス島の浅瀬
トラックとスキフボートとGT 午前6時30分、ピックアップ゚のトラックにそれぞれのグループが乗り込む。 「あのダッチかっこいいですよね。でも日本じゃ、ちょっと大きいのかな。」と隣で、車好きの山田君は覗きこむ。 ピックアップトラックには、軽装の体の大きい白人、フライアングラーが朝から軽快に言葉のやりとりを続けている。最近格段に良くなってきたアメリカントラックは、ぼくのように以前、車業界にいた人間でも目を見張る。 「トラックは、やっぱアメリカだよね。赤ら顔でチェックの長袖をまくり上げて、ジーパンンを穿いた農夫が良く似合うよね。」 もっとも、ぼくらは日本製のこじんまりしたトラックに乗せられて、出発港のロンドンに向かった。7時40分、カタマランカヌー型のスキフボートは、沖を目指して出港した。 しばらく、浅瀬をぬうように進むと、パリスフラットが白黄色に光りだし、頭上に大きなグンカンドリが、10羽あまり、かなり高く舞っている。ガイドのタイロンが黙って、北の方にボートを揺らし始めた。 1時間位走ると、遠くにナスダ(日本宇宙開発事業団)のアンテナが見えてくると、ボートを一度、沖の方に出してから横を向けてエンジンを切らせた。日本政府とキリバス共和国の間で、この島にナスダの日本製スペースシャトルの着陸基地を作ることを合意した。当然、広い道路も大型船用の港も大きなホテルも、日本がこれから作るのである。 |
写真右:クライスラー社のダッチの四駆(ホテルの駐車場にて)
ビックトレバリー!カモンGT! クリスマス島でのぼくらのやり方は、シャローで入り組んだリーフエッジでGTを狙わない。何故なら、長いスキルボートは、小回りも利かないし、日よけ用についている大きな屋根が自慢であるが、それが邪魔でファイトが出来ないからである。そこで、水深が10m以上のところで、ボートを自然に流しながらGTを狙う。 つまり、風に対してボートを横にし、風下にキャスティングを繰り返す。この島はドロップオフが殆どないことから大体、沖1kmまでは水深5〜60mまでの浅瀬が続く。潮をうまく、掴みさえすれば、風を利用して沖目を流す方法は、かなりの威力を発揮する。始め10kg前後のGTが、ぱらぱらと釣れ始めたがサイズが上がらない。 「ビックトレバリー!カモンGT!」とタイロンが叫ぶ。 1時間ぐらい流されたところに浅い根が見えた。すかさず山田君がキャストすると、 着水と同時にS-POPモンスター200が消し飛んだ。 「ルアーを替えて、1投目ですよ!!」
ガイドが釣り上げたオオシャコ バラクーダーも多い
ボートは風に煽られて揺れ出すと、若いガイドが山田君の後ろで、グイイっと腰バンドを掴んでサポートした。4分でGTは浮いたけれど、ガイドは、ランディングが不慣れらしい。ショックリーダーを持って右往左往している間に、GTが外れてしまった。 「何kgぐらいありました?」と、残念そうな顔でこっちを向いた。 「30kg前後だと思うよ。まあ、海の中でリリース出来たのだから、いいんじゃない。OKですよ。」 「鈴木さんに、そう言って頂けると何かうれしいですね。」と、山田君は違うルアーを付け替え始めた。 「えっ、テストの“200“投げないの?」 「ええ、これ、もう宝物になってしまったので。」と、さっさと山田君は傷だらけのルアーをタックルボックスの中に仕舞いこんだ。 今度は、小林さんのロッドが曲がって、20kgが釣れたが、その後は10kg前後に戻った。日が高くなってくると風もだんだんと強くなってきたので、島影で穏やかなパリスチャンネルに戻った。 |
写真左:筆者の釣ったグッドサイズのGT 写真右:機中から見えるクリスマス島の浅瀬
パリスチャンネルのGT 最干に近い引潮になっていたので、パリスフラットから白青色の濁り水が、チャンネルを通って川のように外洋に流れ出している。ボートをうまく流れに乗せて、キャスティングを開始する。白獨の流れも沖に行くに従って濃いブルーに変わった。水深は多分、60m近く有るに違いない。 その時、一番前で、ポッピングしていた山田君のS-POPに大きな影が近づいた。彼は、小さくポンピングしてからルアーを止めると、影は海から身を乗り出して、口の中にルアーを押込むようにバイトした。 7フィートのGT用のロッドは、小刻みに震えながら不規則に出て行くPEラインに同調しているが、5秒もすると一度止まって、魚は今度ボートの方に向かいながら潜った。彼は素早く巻いて、20mまで魚を寄せてから、強引に魚を止めて、リフティングに入る。魚は、ボートの影に入ろうと、下へ下へと潜るが、力はすでに無く、クリアーブルーの海面から水深30mの所でヒラを打つGTの姿が、はっきりと見えた。 2分後ショックリーダーが見えたところで、不慣れなガイドに代わって、ぼくがリーダーを握った。40kg近い巨体が、浮いたけれど、デッキから海面までは高さがある。手を伸ばすのだけれど、ぼくの短い手は魚に届かない。まして、ショックリーダーを回して、尾の付け根を持つことなど不可能なのである。 仕方なく、フロントデッキの縁に足先をからませて、背筋運動をするような格好になりながら、体を折り曲げて、手を魚に近づけると、大きな口が顔近くにグイッと上がってきた。 左手をエラブタに入れ、指をレの字に折り曲げてから背筋を使って、左手一本でランディングした。 「ありがとうございました。」40kgGTの横で、山田君がとニコリと笑った。 写真を撮って、すぐにリリースをした。 もう一度流すと、今度は小林さんのロングペン120に、もっと大きなGTが飛びついたけれど、1分でトリプルフックが2本とも伸ばされてしまった。巨大なGTである。 |
写真左:斎藤さんの釣ったGT
ポーランド沖のGT 次の日、朝一でパリスフラットトのバックサイド、通称ポーランド沖に出た。そこは沖1マイル(1.8km)位まで、だらだらと30m前後の浅瀬が続いている。 朝は、プランクトンが浮いているせいか、ミルクフィッシュが、池の鯉のように口を水面に出して、プカプカと群れで泳いでいた。風は、昨日より少し強くなったらしく、波頭が白く小さく砕ける。ブレードの付いたロングペン100でショートパンプすると、何投目かにドカンとバイトした。 「朝一番は、やっぱりいいですね。」と小林さんが横で言う。 MONSTER CCという6fのショートロッドは、素早く機能して魚を止めに入った。ロッドのガイドは、富士工業が試作で作ったNEWゴールドサーメットリング入りのスペシャルなスーパーオーシャンガイドである。 開発部の竹口君から、4ヶ月前に届いたテスト品ではあるけれど、PEラインの相性はかなり良いと悟った。 確かに、SICリングより、ゴールドサーメットリングの方が柔らかいらしいが、その分摩擦が少なく、PEラインの弱点の熱対策にもなっている。また、チタンコートされたフレームは、錆に強く、4ヶ月のぼくの荒っぽい使用でも何のトラブルも起こしていない。 一度、電話で「このゴールドサーメットリング、何かを変えたのですか?」という質問に竹口君は笑って答えない。この4ヶ月間のテストで見せるnewゴールドサーメットリングの素晴らしさから推察すると、ぼくには以前のものと何かが違うような気がした。 また、前から噂のあったモーリス社の強度アアップPE、スーパーアバニ ホワイト(ぼくが勝手に付けたのだが…) が、見事なマッチングを見せている。このラインラインは、4日間、一回もシステムを取り変える事なく、投げまくり、釣りまくってみたけれど、毛羽立ち一つ無かった。4日間を終わったところで、この魚が最後のテストとなるはずである。 ボートを動かさないで、GTを潜らせないようにコントロールする。うまく寄せてからタイロンがランディングしてくれた。 30kgぐらいのGTは黒々として、やはり、自分で釣った魚は光って見えた。 「でけェーGTですね。」とカメラのシャッターを押してくれた小林さんが誉めてくれた。 |
写真左:GTは、すぐにルアーを外してリリースした 写真右:ロッド:MONSTER CCは、理想的なベントで曲がった。
釣りと開発 この赤道の真上にあると言ってよいクリスマス島にも、開発という波が押し寄せようとしている。 人口は、この5年で1,500人から6,000人に増えてしまった。その殆どが子供で島の平均年齢は17歳と聞いた。 日本の協力で島が開けていくことは島民にとっては望むことであるが、僕らのような“釣りバカ”から見ると、不便でも魚のいる方が良いに決まっている。ただ、それを叫んだところで、我々のエゴでしかない。願わくば、GTの楽園が1日でも長く続いてほしいと思う。帰りのトラックからは道に子供たちが溢れ、ぼくたちに眩しい視線を送るのが見えた。 キャプテンクックホテルに続く一本道には、小学生が同じ青と白の制服でグループを作って歩いている。 彼らの横を通り過ぎる度に、手を振る。中には何人かが、手をバタバタさせておどけた顔をみせる。 「昨年は、みんな逆立ちをしていたんですがね。今年の流行は、あれですかね。」と 冷静な山田君が笑った。 |
休憩中の筆者
昼休みにフライを楽しんだ筆者 ロッドは、もちろん自分で作って行ったが、フライは、山田君にもらった。
活躍したタックル ロッド :MONSTER CC YELLOWTAIL BG70 ルア−:S-POP200BH LONG PEN100 CRAZY SWIMMER100 ライン :モーリス社 スーパーアバニ(試作品)6号(80lb),8号(100lb) |